Council of Stellar Management(CSM)は、EVE Onlineにおける公式のプレイヤー代表機関です。プレイヤーによって民主的に選出されたメンバーで構成され、ゲームの継続的な開発においてCCP Gamesに助言と支援を提供する役割を担っています。

このCSMはその20年近い歴史の中でゲーム内外における複数の重大な事件に関与してきました。これらの出来事は、プレイヤー代表機関としてのCSMの役割と責任の重さを示すものとなっています。

T20スキャンダル(2007年):CSM創設のきっかけ

CSM制度が生まれる直接のきっかけとなったのが、2007年に発覚したT20スキャンダルです。この事件では、CCPの開発者であるT20というハンドルネームの人物が自身が所属する勢力BoBに対して本来存在しないはずのT2 BPOを不正に提供していたことが明らかになりました。この情報は、敵対コーポレーションのプライベートフォーラムをハッキングしたKugutsumenというプレイヤーによって暴露されました。

この事件は開発者とプレイヤーの間の信頼関係を大きく損ねる結果となりました。CCPは謝罪文を発表したものの、T20は2008年後半まで開発者として在籍し続けました。一方、情報を暴露したKugutsumenはT20の実名を公開したことでゲームの利用規約違反として永久追放処分を受けました。この事件を受けて、CCPは開発者アカウントの監視を行う内部監査部門を設立し、さらに透明性とアカウンタビリティを高めるために、2008年3月にプレイヤー選出によるCSM制度を創設しました。

「Summer of Rage」(2011年):CSMの政治的影響力の確立

2011年夏に発生した「Summer of Rage」は、CSMがCCPに対して実質的な影響力を行使した最初の大規模な事例となりました。この危機は、「Incarna」アップデートで導入された高額なマイクロトランザクション商品と内部文書「Fearless」の流出により引き起こされました。この文書には「欲は善である」という表現があり、CCPがPay to win要素の導入を検討しているのではないかという懸念が広がりました。

プレイヤーたちはJitaシステムのモニュメント前で大規模な抗議デモを行い、多くのプレイヤーが宇宙ステーションに船を放置して抗議の意を示しました。状況を打開するためCCPは緊急CSMサミットを招集し、2日間にわたる激しい交渉が行われました。この交渉においてCSMは単なる諮問機関ではなく、実質的な交渉力を持つ組織としての地位を確立しました。

CSM議長のThe Mittaniと開発責任者のCCP Zuluが共同で声明ビデオを発表した際、The Mittaniが明らかに優位な立場にあったことは象徴的でした。この出来事によりCCPはプレイヤーコミュニティの声を真剣に受け止める必要があることを再認識し、CSMの制度的重要性が大幅に向上しました。

The Mittani事件(2012年):ハラスメントとCSMの品位

2012年のFanFestで発生したThe Mittani事件は、CSMメンバーの行動基準について重要な議論を巻き起こしました。当時CSM6の議長を務め、CSM7でも史上最多の1万票以上を獲得して再選されていたThe Mittani(本名Alex Gianturco)はアライアンスパネルでの発表中、離婚により精神的に不安定になっていたプレイヤーの名前を公開し聴衆に対してそのプレイヤーを継続的にハラスメントするよう扇動しました。

The Mittaniは酩酊状態でこの発言を行い、「この男を自殺させたいなら、彼の名前は…彼を見つけろ」と述べました。この発言は動画で記録されており、後日公開されると大きな批判を呼びました。The Mittani自身は後に、泥酔していたため自分の発言を覚えていなかったと主張しました。

事態を重く見たCCPは、The MittaniのCSM7議長職を剥奪し30日間のゲームアクセス禁止処分を科しました。The Mittani自身も事態の深刻さを認識し、被害者に対して個人的および公開的に謝罪を行い、全てのゲーム内通貨を被害者に送りました。さらにCSM6とCSM7の議長職から自主的に辞任しました。この事件は、CSMメンバーが公人として高い倫理基準を守る必要があることを明確にしました。

The Judge/CO2/Gigx事件(2017年):CSMサミットでの裏切り工作

2017年9月に発生したThe Judge事件は、CSMメンバーの立場を利用した政治工作の最も劇的な例となりました。この事件ではCSM12メンバーであり4000人規模のアライアンスCircle of Two(CO2)の外交責任者だったThe Judgeが、Keepstarを含むアライアンスの全資産を横領し敵対勢力であるGoonswarm Federationに売却しました。

この裏切りの背景には約1年にわたる周到な計画がありました。Goonswarm側のCSMメンバーであるAryth(The Mittaniの右腕)はアイスランドのCSMサミット期間中、実際にCCP開発者が同席する場でThe Judgeを味方に引き入れる工作を行いました。AryはCSMサミットの機会を利用して、The JudgeとCO2のリーダーGigxとの間の不和を観察し、適切なタイミングで裏切りを促しました。

The Judgeは2017年9月11日、Gigxが就寝したことを確認した後、管理者権限を使用してアライアンスの全資産、全艦船、全通貨を奪取しました。さらに彼はこの一部始終をTwitchで2000人の視聴者に対してライブ配信し、CO2メンバーのパニックと混乱を公開しました。激怒したGigxはDiscord上でThe Judgeに対して現実世界での身体的危害を示唆するメッセージを送信したため、CCPはGigxを永久追放処分としました。

この事件は、CSMメンバーの地位がゲーム内政治における強力な武器として利用され得ることを示しました。AryはCSMサミットを情報収集と工作活動の場として活用し、「CSM史上最高のメンバー」と自称しました。CCP開発者はこの一連の出来事を目撃していましたが、ゲーム内の裏切り行為そのものは規約違反ではないため介入しませんでした。

Brisc Rubal冤罪事件(2019年):誤った告発と名誉回復

2019年4月に発生したBrisc Rubal事件はCSM運営における重大な判断ミスを示す事例となりました。CSM13メンバーであり、現実世界では海事法ロビイストとして活動していたBrian Schoeneman(ゲーム内名Brisc Rubal)は、機密情報を自身のアライアンスメンバーに漏洩し、不正な取引を行わせたとして告発されました。

CCPは詳細な調査を行わないままBrisc Rubalの全アカウントを永久追放処分とし、CSMからの除名を発表しました。さらに関与したとされる2名のプレイヤーにも1年間の活動停止処分が科されました。この告発は他のCSMメンバーからの情報提供に基づくものでした。

Brisc Rubalは即座に疑惑を否認しNDA違反の事実はないと主張しました。弁護士でもある彼は、CCPに対して証拠の開示を求めましたが当初CCPは応じませんでした。この突然の処分は彼が所属するThe Initiativeアライアンスの数千人のメンバーにも大きな影響を与えました。

しかし約2週間後、CCPは調査の見直しを発表し最終的に当初の判断が誤りであったことを認めました。CCPは「初期の証拠が不確実なものであり、十分な検証を行わずに性急な結論に至った」として、Brisc Rubalと他の2名のプレイヤーに正式に謝罪しました。全アカウントは復元され没収された資産も返還されましたが、Brisc Rubal自身は残りの任期が短かったこともあり、CSMへの復帰は辞退しました。

この事件はCCPの調査プロセスに重大な欠陥があったことを露呈し、告発に対する慎重な検証の重要性を示しました。

Alcoholic Satan情報漏洩事件(2024年)

最も最近の事件として、2024年10月にCSM18メンバーのAlcoholic Satanが、「Revenant」アップデートに関する機密情報を公開したとしてCSMから除名されました。内部監査部門の調査によりAlcoholic Satan自身が自発的に情報漏洩を認めました。CCPはこれを「genuine mistake(純粋なミス)」と評価しましたが、NDA違反は明確であったため、CSMからの除名処分とCSM19への立候補資格剥奪という措置が取られました。

この事件は比較的穏やかに処理されましたが、CSMメンバーが扱う情報の機密性と、NDA遵守の重要性を改めて確認させるものとなりました。


これらの事件は、EVE OnlineのCSM制度が単なる諮問機関ではなく実質的な政治的影響力を持つ組織であることを示しています。CSMメンバーは開発者との直接的なコミュニケーションチャネルを持ち機密情報にアクセスできるため、その地位は大きな責任を伴います。同時に、この制度がゲーム内政治、現実世界の評判、そして開発者との関係という複雑な力学の交差点に位置していることも明らかです。

CCPは過去の教訓からより厳格なNDA管理、慎重な調査プロセス、そして透明性の向上を図ってきました。しかしEVE Onlineというゲームの性質上、裏切り、策略、政治的駆け引きは許容される要素でありCSMという制度もその影響を完全に免れることはできません。これらの事件は仮想世界と現実世界の境界線がいかに曖昧であるか、そしてオンラインコミュニティのガバナンスがいかに複雑であるかを示す興味深い事例となっています。

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