
CCP GamesがEVE Frontierの開発基盤をSuiブロックチェーンに移行することを発表した。この戦略的決定は、単なる技術的変更ではなく、22年の運営経験を持つEVE Onlineの哲学と、Suiの革新的なアーキテクチャが完璧に一致した結果である。
永遠のゲームを実現する哲学:「EVE Forever」
EVE Frontierの開発を動かす根底にあるのは、CCP GamesのCEO Hilmar Veigar Pétursson氏が2008年頃から掲げてきた「EVE Forever」というビジョンである。これは単なるキャッチフレーズではなく、ゲーム設計の全てに影響する根本的な哲学だ。
Hilmar氏は次のように語る:「本当に永遠に続くものを考え始めると、実は非常に高いハードルがある。永遠に続くビジョンを実現するにあたって、直感的には想像しない多くの課題が生じる。その最たるものは、あらゆる形式の中央集権化が永遠計画の弱点になるということだ。」
インターネット自体が分散化されており単一障害点がないように設計されているのと同じく、CCP Gamesはゲームが本当に永遠に続くためには、中央管理から脱却し、分散化されたシステムが必須だと考えている。
ブロックチェーン技術への関心は古く、1990年代後半には分散型オブジェクトシステムでの実験を試みていたが、当時の暗号技術不足により、ハッキングに対する防御ができなかった。その後、2013年のBitcoin登場以降、継続的にブロックチェーン技術の進化を監視してきた。
なぜSuiなのか:収束進化する設計理念
EVE Frontierの開発チームがSuiを選択した理由は、驚くべき「設計の一致」にある。
Mysten LabsのCTO兼Move言語の作成者であるSam Blackshear氏も、同様のジャーニーを歩んでいた。Facebookで4年間Diem(当時のLibra)ブロックチェーン開発に従事した彼は、その経験から学んだ教訓をSuiに反映させた。
Blackshear氏は説明する:「パフォーマンスの観点から、我々は最も重要な問題に取り組んだ。最小の遅延をどのように実現するか、だ。グローバルに分散したネットワークがある場合、遅延が単なる世界中へのメッセージ送信時間だけになるようにする必要がある。」
Suiの基本設計にはゲームが主要な指針となっていた。高性能ゲーム、数百万人のプレイヤーを同時にサポートする能力、リアルタイムアクションの実現—これらはすべてEVE Frontierが必要とする要件と完全に一致している。
オブジェクト中心設計の重要性
Suiのアーキテクチャで最も重要な特徴は、オブジェクト中心設計だ。CCP Gamesは数十年前からアイテム中心の設計を採用してきたため、Suiのオブジェクト指向モデルはまさに理想的なマッチだった。
Hilmar氏は次のように述べている:「Suiのアーキテクチャを掘り下げると、本当に多くの馴染みのあるコンセプトを発見した。特に、彼らのオブジェクト中心アプローチが、当社の歴史的なアイテム中心アプローチと完全に合致している点だ。これにより、プレイヤーが配置した数十億のオブジェクト/アイテムがすべて、生きた宇宙を形作ることができる。」
Blackshear氏も確認する:「我々が意思決定について話し合うたび、HilmarとCCPのチームは『我々もこの決定をした』と言う。そしてほぼいつも、それが同じ決定なのだ。強い技術チームが何か長期的に続くものを構築しようとするとき、同じ場所にたどり着く傾向がある。それは本当に素晴らしい。」
Move言語:ブロックチェーン上でのプレイヤー主権の実現
EVE Frontierの最も革新的な側面が「Smart Assemblies」—プレイヤーが直接プログラミングできるゲーム内インフラだ。これはMove言語によってはじめて安全に実現できる。
Blackshear氏は、Move言語を設計した理由を明確に語る:「新しいプログラミング言語を作るとき、理由があるはずだ。Moveで目指したのは、信頼境界を超えた相互運用性の実現だ。従来のプログラミング言語では、外部コードや外部パケットから隔離することでセキュリティを確保している。しかしブロックチェーンではそうではない。誰かが自分のルール、自分の不変性を持つ信頼ドメインを確立し、その後、他のコードに対象を流す必要がある。」
つまり、Move言語はプレイヤーが安全にゲームを改造できるよう、最初の原理から設計された言語である。CCP Gamesにとって、このような「セキュリティ強制型の改造可能性」はSmart Assemblyのビジョン実現に欠かせない。
スケーラビリティ:数十億のプレイヤーと無限の宇宙
EVE Frontierは数万の星系システム、無数のプレイヤー艦船とインフラを支える必要がある。Suiのスケーラビリティ戦略は、Facebookでの大規模システム構築経験から直接生まれている。
Blackshear氏は語る:「スケーラビリティの観点から、我々は常にFacebookのようなWeb 2大企業がスケールする方法に焦点を当てた。これは『ブロックチェーンが毎秒いくつのトランザクションを処理できるか』ではなく、『与えられたコア数とマシン予算に対して、どれだけのスループットを得られるか』だ。より多くのコアとマシンを与えられれば、それをスケールアウトできるべきで、その限界はないはずだ。」
Suiは最初からこのように考えて設計されており、オブジェクト中心データモデルによって水平スケーリングが実現される。
ゲーム性が最優先:テクノロジーはあくまで手段
ここで重要な視点がある。CCP Gamesはブロックチェーン技術の素晴らしさに惑わされていない。
Hilmar氏は強調する:「基本的に、ゲームを作ることは難しい—本当に難しい。技術がこの問題を解決することはできない。実は良いゲームを作って、人々がそれをずっとプレイしたいと思わせることが、すべての前提条件だ。永遠計画は、実はぜいたくな悩みだ。第一段階は、人々がプレイしたいゲームを作ることだ。」
Suiとの提携は、優れたゲーム体験を妨げるテクノロジー上の制限を取り除くためのものである。決してテクノロジーを見せびらかすためではない。
プレイヤーの創意工夫に力を与える:Smart Assembliesの真の価値
EVE Onlineで最も興味深い現象は、プレイヤーが想像以上のクリエイティビティを発揮することだ。Blackshear氏は好例を挙げる:
「ハードコアなEVEプレイヤーの好きなエピソードの一つは、『敵のコーポレーションに潜入し、宇宙戦を行う際に両耳に異なるヘッドフォンを付け、自分のチームと敵チームのリアルタイム通信を同時に聞いて戦術に活かす』というもの。彼はAPIを読むことと基本的なゲームプレイしかできない状況下で、既にこんなに創意工夫に満ちたことをしている。彼にプログラミング能力を与えたら、どんな面白いことをするだろうか。」
これがSmart Assemblyの本質だ。プレイヤーが直接ゲームのルールを書き換える能力。EVE Onlineの20年間で培われたサードパーティー開発の文化が、EVE Frontierではオンチェーンで実現される。
所有権の真の意味:法的課題から解放へ
従来、デジタルゲームの所有権は企業のライセンス契約に支配されてきた。EVE Onlineのエンドユーザーライセンス契約には悪名高い一文がある:「我々はすべてを所有する。あなたはHilmarが機嫌良い時だけアクセス権を持つ。」
ブロックチェーン上では状況が変わる。Hilmar氏が述べた例は印象的だ:「時々、亡くなった方の遺族からの手紙を受け取ります。その遺言に『娘は宇宙船Aを受け継ぐ、息子は宇宙船Bを受け継ぐ』と記されているのです。これは本当に起きている。」
ブロックチェーン上では、このような継承が技術的に可能になり、かつ個人の所有権が完全に保証される。
100年後へのビジョン
インタビューの最後で、Hilmar氏は長期的な視点を示した:「良い複雑なシステムは、単純で良いシステムから始まる。我々が今やるべきことは、Founder Accessビルドのすべてを削ぎ落とし、改造可能性や永遠性なしで、本質的にゲームが面白いかどうかを確認することだ。」
彼の最終的なビジョンは壮大だ:「EVEはスペースゲーム。人々が宇宙に住むことについてのゲーム。100年後、我々が太陽系を植民地化し、その先へ進んでいるなら、EVE OnlineやEVE Frontier、そして他のスペースゲームが、人々がそれを仮想的に体験する前に物理的にやってくるのを助けるような、何らかのプレースホルダーになっていることを強く望む。」
結論:ゲーム業界のパラダイムシフト
EVE FrontierのSui移行は、単なるブロックチェーン採用の事例ではなく、ゲーム業界全体のパラダイムシフトを示唆している。
22年の運営経験を持つスタジオと、Facebook経験者によって革新的に設計されたブロックチェーンが出会い、本当の意味でプレイヤー主権を持つ「永遠のゲーム」を実現しようとしている。
テクノロジーはあくまで手段。目標は、素晴らしいゲーム体験を通じて、プレイヤーが本当の所有権を持ち、創意工夫に満ちた第三者開発者と共に、100年以上続く宇宙を共同構築することだ。
その過程で、Web3とゲーム業界の未来が定義されるかもしれない。
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