
「プレイヤーが自由にプログラムできるストラクチャ」と聞いて、一般EVEゲーマーのみなさんはどう思いますでしょうか。今回は、このSmart Assembliesというのが一体どういったものか、何が画期的なのかを簡単に解説していきたいと思います。
Smart Assembliesとは?
簡単に言えば、宇宙に設置できる構造物に、自分でプログラムした動作を組み込めるということです。普通、例えばなにかの製造施設やベンダーを置いたら「アイテムAを入れたらアイテムBが出てくる」みたいな決まった動作しかできませんでした。でもSmart Assembliesなら、「朝6時から9時までは半額」とか「特定のアイテムに割引」みたいな複雑な条件を自分で設定できるわけです。
聞こえはいいですが、Smart Assembliesでこの機能を実装するためにはSolidityという言語をつかったプログラミングができる必要があります。 大多数の普通のゲーマーがこれにどれだけの関心を持つかは、正直疑問です。
従来のゲームとの違い
確かに、既存のゲームとは明確に違う点があります。
従来のMMOの構造物システムでは、開発者が用意した機能しか使えません。例えば、ギルドハウスを建てても、できることは「アイテム保管」「メンバー管理」「バフ効果」くらい。どのギルドも基本的に同じことしかできないわけです。
一方、Smart Assembliesの世界では、理論上は何でもオリジナルの機能を実装できます。例えば:
- 特定の敵を倒した証明がないと入れない秘密基地
- リアルタイムの市場価格に連動する自動取引所
- プレイヤーの行動履歴を分析して最適な装備を提案するAIショップ
- ミニゲームをクリアしないと通れないゲート
こうしてみると、確かに可能性は無限大に見えます。なんというかマイクラに近い、それよりかマイクラ以上の機能を実現できるということなのですが、それって本当にMMOで実現できる、いや、して良いのでしょうか?
実際に作れる構造物の例
現在Devサイトでサンプルとして紹介されているのは以下です。
Smart Storage Unitsは、単なる倉庫を超えた機能を持たせられます。例えば:
- 自動販売機:複雑な交換レートで自動取引
- カジノマシン:ギャンブル要素を組み込んだアイテム交換
- 会員制ショップ:特定条件を満たすプレイヤーのみ利用可能
でも正直、これを既存のNPCショップではなくわざわざプレイヤーに作らせる必要があるかという問題があります。また我々一般ゲーマーとしては良い面よりも悪用の方を色々と気にしてしまいます。
Smart Turretsは、自動防衛システムとして機能します:
- 敵対勢力のメンバーを自動攻撃
- 賞金首を優先的にターゲティング
- 時間帯によって攻撃対象を変更
はい、これを読んで生粋のEVEプレイヤーなら何を考えるでしょうか。良い用途よりも悪い用途ばかり思いついてしまいます。特定のプレイヤーが輸送艦で現れたらフレンドリーファイヤするコードとかを内緒で埋め込んだりしたくなります。
Smart Gatesは、移動システムに条件を付けられます:
- 通行料を自動徴収
- VIPメンバーは優先通過
- 荷物検査システム
荷物を自動でチェックするゲート?(一部界隈が歓喜)ほんとにそこまでプレイヤーがカスタマイズできて大丈夫なんでしょうか。EVEで。
ブロックチェーン統合の「メリット」(本当に?)
Smart Assembliesは「ブロックチェーン技術により改ざん不可能で公平なシステムを実現」と謳っています。確かに、一度設定したプログラムはオンチェーンで保護され簡単には変更できないので、ハッキングは防げるかもしれません。
でも、これって逆に言えば簡単に修正できないってことになります。
「すみません、プログラムのミスで味方を攻撃しはじめています。開発担当者は最近ログインしていません。」なんてことが起きたら詰んでしまいます。まあ壊せばいいんでしょうけど。
ちなみにEVE Frontierは艦船含むすべての構造物の動作に「燃料」が必要で、これがなくなると機能停止します。EVEOnlineと同じくAbondon状態として破壊もしやすくなるのだと思います。CCPはこれが悪いプログラムの淘汰につながると言いますが、悪用そのものについての抑止にはなりません。
重要な点:これが「ゲーム」として面白いのか
Smart Assembliesのコンセプト自体は確かに興味深いです。プレイヤーの創造性を最大限に活かせる可能性があるのも事実でしょう。
でも、現実的に考えて、これを楽しめるのは一部の高度人材ゲーマーだけになりかねません。プログラミング知識が必要で、ローカルの開発環境を構築し、テスト・デバック・本番デプロイ…。これって、ライト層のみならず大多数の一般ゲーマーにとってハードルが高すぎます。
CCPは「Minecraftのレッドストーンよりもっとカスタムできる」みたいな感じと言っていますが、そもマイクラでレッドストーン使いこなせる人は限られてると思いますし、それをガチのアプリ開発レベルにまで引き上げてしまうと、一部のハッカーたちが支配するディストピア社会になりそうな気がしてなりません。
それでも期待できる点
とまあ今回はあえて批判的に書いていますが、善意が勝り創発的なエコシステムが発展する可能性も否定できません。開発者が想定していなかった使い方で、まったく新しい遊び方が生まれるかもしれません。また昨今AIの発展によりプログラミングの敷居がどんどん下がっています。おそらくほぼ数年のうちに、プログラム言語を覚えなくても誰でも複雑な機能を実装できるようになりそうですし(厳密には誰でもではなく、敷居が下がるという意味で)。
結論:EVE Frontierは成功するのか
Smart Assembliesが本当にMMOやメタバースに革命をもたらすかどうかは、正直まだわかりません。技術的には確かに画期的ですが、それがすべてのプレイヤーにとっての「楽しさ」につながるかは別問題です。
プログラミングが得意で、複雑なシステム構築に喜びを感じる人にとっては、確かに夢のような仕様でしょう。でも、大多数の「普通のゲーマー」にとっては、単に敷居が高くなっただけかもしれません。
崇高な理想を追求して「ゲーム」の常識を突き破ることができるのか、それとも風呂敷広げすぎた結果ローンチできず、そのうち資金が尽きてまたお蔵入りするのか。実際、ベンチャーキャピタルのA16Zから融資された4,000万ドルはすでに使い果たしたと財務諸表が示しており(関連記事)、先日のパブリックベータのプレスリリースは開発の資金集めのためだと思われます。
CCPの社運を賭けたこのプロジェクトが果たして成功するのか、引き続きEVE Frontierの開発状況を注視していきたいと思います。
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