
EVE Fanfest 2025で行われたCCP GamesのEVE Frontier物理エンジンに関するキーノートプレゼンテーションは、ゲームの核となる物理システムについて興味深い詳細を明らかにしました。CCP Wizardによって行われたこのプレゼンテーションでは、EVE OnlineとEVE Frontierの物理法則の違いや、実装の技術的詳細について説明がありました。
New EdenとFrontierの物理法則の違い
プレゼンテーションの前半では、EVE Online(New Eden)とEVE Frontierにおける物理法則の違いが解説されました。CCP Wizardによると、最も重要な違いは以下の点です:
1. 推進力の方向性
EVE Onlineでは、PEG(Perpetual Energy Generator:永久エネルギー発生装置)のおかげで、宇宙船はどの方向にも加速することが可能です。一方、EVE Frontierでは、推進力は常に船の前方向にのみ働きます。つまり、方向を変えるためには、まず船自体を回転させる必要があります。
2. 遮蔽(オクルージョン)システム
Frontierでは、物体の後ろに隠れることが可能になりました。岩の後ろに隠れると、相手からは見えません(相手も同様に見えなくなります)。これにより、鉱石を採掘する際に岩の後ろに隠れて他のプレイヤーから身を守るといった戦術が可能になります。
3. フレンドリーファイアと弾道物理学
EVE Onlineでは、弾丸やレーザーは目標に向かって障害物を通り抜けることができましたが、Frontierでは弾丸は物体を通過できません。そのため、ターゲットと自分の間に何かある場合、その障害物に命中します。また、フレンドリーファイアが完全に有効になっています。
4. 衝突判定の改良
宇宙船の衝突判定情報が改良され、より正確な衝突が可能になりました。EVE Onlineでは船全体を覆う単一の球体で衝突判定を行っていましたが、Frontierでは複数の球体を使用して船の形状をより正確に表現しています。
5. モジュールの質量
EVE Onlineではカーゴホールドに入れたモジュールは質量を持ちませんでしたが、Frontierではターレットスロットに装着しても、カーゴホールドに入れても同じ質量を持ちます。つまり、カーゴホールドにものを積めば積むほど船体自体の質量が増加し、旋回等に影響が出ていきます。
物理法則の設定背景
EVE OnlineではPEGが存在し、宇宙船のエネルギー源として機能していましたが、Frontierにはこの技術が存在しません。代わりに、「静寂(Stillness)」と呼ばれる量子もつれを利用して光速を超える移動を可能にします。また、このワープドライブを動作させるには「負のエネルギー」が必要で、これは「原始物質(crude matter)」の派生物からのみ得られます。
船の方向転換は推進装置ではなく、内部のリアクションホイールによって行われます。これによりエネルギーを節約し、より安全で安定した操縦が可能になります。船の反応時間は慣性モーメントに依存し、これは質量に関連しています。質量が大きければ大きいほど、船の反応は遅くなります。
技術的実装の詳細
プレゼンテーションの後半では、物理システムの技術的な実装について詳しく説明されました:
Destiny 物理エンジン
EVE FrontierはEVE Onlineと同様に「Destiny」と呼ばれる物理エンジンを使用しています。このエンジンは完全に決定論的に設計されており、初期条件が与えられれば、任意の時間における物理オブジェクトの位置を計算できます。
モデルとしては、重力のない低レイノルズ数のニュートン流体を使用しています。CCP Wizardは冗談めかして「重力のない天体物理学シミュレーション」と表現していました。このモデルは、与えられた推進力に対して最大速度を設定することで、プレイヤーが数百キロメートル内にとどまりながら船を合理的に制御できるようにしています。現実的な物理法則だと、船は光速に近い速度で飛び回り、止まるのに30分もかかってしまうでしょう。
方向づけ(オリエンテーション)システム
船の回転についても、線形運動と同じ方程式を使用していますが、回転に関しては少し「チート」をしているとのことです。完全に正確な微分方程式を解くのではなく、角運動量とトルクが整列していると仮定することで、閉じた形式で解を得ることができます。
視線計算とオクツリーグリッド
視線計算にはオクツリーグリッド(Octree Grid)を利用しています。これは空間を立方体に分割し、さらにその立方体を小さな立方体に分割するという入れ子構造になっています。このデータ構造により、視線の遮蔽計算が大幅に高速化されました(約100倍)。
ただし、この計算は移動可能なオブジェクトの数とプレイヤーの数の積に比例するため、グリッド上の多くのプレイヤーが参加する大規模な艦隊戦では、物理エンジンの計算時間の90%以上を占めることになります。CCP Gamesはこの問題を解決するための方法を模索中です。
衝突システムと命中計算
船の衝突判定には複数の球体を使用し、より正確な形状を表現しています。例えば、細長い船は船体に沿って10個程度の球体で構成されます。これにより、衝突時の挙動がより現実的になります。
船の中心に当たっても、回転は発生せず横方向への速度のみが生じます。一方、前方から衝突すると、特に質量の大きな船が小さな船に衝突した場合、回転が発生します。初期の実装では最大角速度に制限がなかったため、衝突後に船が数分間回転し続けるという現象が起きていましたが、現在は修正されています。
ターレットの命中計算では、ターレットから放出される確率的な「コーン(円錐)」を使用しています。追尾(トラッキング)も考慮されており、ターゲットが自分に対して高い角運動量で動いている場合、コーンのサイズが大きくなります。例えるなら、素早く動くアヒルをショットガンで撃つときのように、狙いがずれやすくなります。
プレイヤーへの影響と今後の展望
プレゼンテーションでは、これらの物理システムがプレイヤーにどのような影響を与えるかについても触れられました:
- 最適射程と減衰範囲のUIはまだ完全に更新されていませんが、実際の最適射程は船の角サイズに依存します。戦艦のような大きな船は、フリゲートのような小さな船よりも命中させやすくなります。
- 弾丸は理論上、グリッド上の3000km離れたターゲットにも命中する可能性がありますが、非常に運が良くなければ不可能です。
- Frontierには現在、EVE Onlineのような高セキュリティ領域やCONCORDは存在しません。
- 将来的には、船の特定の部分(例:エンジン部分)を狙って攻撃することが可能になるかもしれませんが、ターゲティングシステムのUIの問題もあり、現在は実装されていません。
まとめ
EVE Frontierの物理システムは、より「リアリスティック」なアプローチを取りながらも、ゲームプレイの楽しさを維持するためのバランスを取っています。推進力が前方向のみになったこと、障害物の背後に隠れられるようになったこと、より正確な衝突判定が行われるようになったことなど、これらの変更はゲームプレイに大きな影響を与えることになります。
CCP Wizardの説明によれば、これらの物理システムの多くはEVE Onlineにも技術的には導入可能ですが、既存のゲームプレイを大きく変えることになるため、現時点では計画されていないとのことでした。
EVE Frontierの物理システムは、同じCarbonエンジンを基にしながらも、より戦術的で没入感のあるゲームプレイ体験を提供することを目指しています。
本記事は2025年5月のEVE Fanfestで行われたCCP Wizardによるプレゼンテーションに基づいて作成されています。
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