
EVE Onlineのプレイヤーたちが語る、Nullsec領土戦争の構造的問題
2024年から2025年にかけて、EVE OnlineのNullsecは大きな変動を経験している。Imperiumの東方侵攻、Catchリージョンでの衝突、そしてPanFamの崩壊と大規模なプレイヤー流出。これらの出来事は、長年プレイヤーコミュニティが議論してきた根本的な問題を改めて浮き彫りにした。
「Nullsecは本来、何百もの独立したグループが争い合う場所であるべきなのに、巨大ブロックがあまりにも定着してしまい、競争を阻害している」—EVE公式フォーラムに投稿されたこの意見は、多くのプレイヤーの声を代弁している。
しかし、この問題はそう単純ではない。本稿では、コミュニティの様々な意見を紹介しながら、Nullsecが抱える構造的問題、プレイヤーが巨大アライアンスに流れる理由、そしてシステム改善の可能性について考察する。
第1章:Nullsecが抱える構造的問題
「Hell Dunk or Blue Balls」の時代
現在のNullsecを象徴する言葉がある。「Hell Dunk or Blue Balls」—圧倒的に有利な状況でなければ戦闘を拒否するという戦略だ。あるベテランプレイヤーは、PandaFamがImperiumに対して採用したこの戦略について次のように語っている:
「PandaFamはImperiumに対して”退屈による消耗”戦略を追求してきた。彼らはもう大規模な艦隊で我々の領域にローミングしてこない。完全に”Hell Dunks or Blue Balls”ドクトリンに移行し、大幅な数的優位がない限り戦闘を拒否する」
この状況は、実質的にNullsecを膠着状態に陥れている。戦闘がなければコンテンツはなく、コンテンツがなければプレイヤーはログオフし、人口は減少する。
Aegis Sovの皮肉な結果
2015年に導入されたAegis Sov(通称Fozzie Sov)は、小規模な戦闘を促進し、「楽しさ」を増やすことを目的としていた。しかし、皮肉なことに正反対の結果を招いた:
「Aegis Sovは、主権戦争を悪夢のような消耗戦に変えてしまった。数的優位がなければ。6時間以上にも及ぶiHubを巡る”ピンポン”戦闘を経験したことがあるが、2時間を過ぎると楽しさなど微塵もない」
さらに深刻なのは、このシステムが意図せず巨大アライアンスを助長したことだ:
「どんなアライアンスでも主権を攻撃できるが、防衛できるのは所有アライアンスだけ。だから大きな同盟を持つ小さなアライアンスでさえ、窮地に陥る可能性がある」
レンター帝国の暗部
巨大コアリションが広大な領土を保持する理由の一つに、レンティング(賃貸)システムがある(あった)。ある分析によると、実はPandemic Hodeの構成員の多くは実質的に「レンター」であったと言う。
「レンティングに使われるシステムは、資源が乏しいものは放置され、それ以外は24時間採掘やラッティングに使われる。攻撃者もなく、艦隊もなく、PvPもない。すべてがレンティングとBotによる稼ぎに変わり、楽しいゲームがレンターファームに変貌している」
第2章:なぜプレイヤーは巨大アライアンスに集まるのか
安全と数の論理
EVEにおいて、数は力である。これは単なる比喩ではなく、ゲームの根本的なメカニクスに組み込まれた現実だ。あるプレイヤーは端的に述べている:
「大規模アライアンスに参加する理由は簡単だ—彼らと一緒なら安全だから」
小規模なグループでNullsecに進出した場合、次のような現実が待っている:
- ジャンプブリッジネットワークによって、巨大勢力は数分で領域全体をカバーできる
- 各所に設置されたKeepstarにより、遠くで発生した脅威にも即座に対応可能
- 小規模ギャングが侵入しても、数ジャンプ後には待ち伏せされている
インフラとコンテンツへのアクセス
巨大アライアンスは、小規模グループには不可能なインフラを提供できる:
「大規模なアライアンスでは、SRP(Ship Replacement Program)があり、フリート用のドクトリンフィットが用意され、定期的なオペレーションが組まれている。一人で試行錯誤するより、はるかに効率的に学べる」
また、Nullsecの高収益なPvEコンテンツ(スーパーキャリアによるラッティング、ムーンマイニングなど)は、大規模グループの保護下でなければ現実的に運用できない。
生存本能と組織の淘汰
長年EVEをプレイしてきたベテランは、より本質的な観点を指摘する:
「何百もの小さなグループが長年にわたって争い、統合され、現在の巨大ブロックになった。小さなグループが”自分たちの”領土を持ち、公平なチャンスを得たいと思っても、ほとんどのコープやグループは数ヶ月か1〜2年で解散する。パワーブロックこそが、生き残るための組織力とリーダーシップを持つグループなのだ」
これは単なるゲームメカニクスの問題ではなく、人間の組織行動そのものを反映している。
第3章:システム改善への提案
パワープロジェクションの制限
最も頻繁に議論される解決策の一つが、パワープロジェクション(遠距離への戦力投射)の制限だ:
「遠距離で戦闘したり意志を強制したりするのに、もっと多くの労力が必要になれば、グループはそれを控えるようになる。それは小規模グループが自分たちのアイデンティティを形成する余地を生み出す」
具体的には、ジャンプドライブの疲労増加、ジャンプブリッジネットワークの制限、サイノジェネレーターのコスト増加などが提案されている。
ある提案では、領土の規模に応じて移動コストが変動するシステムを考案している:
「小規模アライアンスの領域は”ジャングル”のようになり、小規模なグループは素早く動けるが、大規模グループは行き詰まる。大規模アライアンスの領域は”大都市”のようになり、正面からの攻撃に対しては防衛しやすいが、小規模な敵を追いかけるのは困難になる」
活動ベースの防衛システム
理想的な領土戦争システムとして、多くのプレイヤーが「活動的なシステムは防衛しやすく、非活動的なシステムは奪われやすい」という原則を支持している:
「100〜200人の活動的プレイヤーからなる小規模アライアンスが、1つか2つの星系に密集していれば、十分な防衛力を持つべきだ。領土は自然と、アライアンスが実際に防衛可能なシステムだけに縮小し、成長するアライアンスは隣接領土を求めて拡張し、空きシステムは新規参入者の格好のターゲットになる」
これはFaction Warfareの「Frontline」システムをNullsecに適用するという提案とも関連する。活動的なシステムは収益性が高く防衛しやすく、後方のシステムは安全だが収益性は低い、というメカニクスだ。
領土維持コストのスケーリング
一定以上の領土を保持するとコストが急増する「スタッキングペナルティ」の導入も議論されている:
「一定数以上のシステムを持つと、維持コストが増大するようにすべきだ。これにより、小規模アライアンスが少数のシステムを持つことが効率的になり、現在のように一部のアライアンスが膨大なシステムを保持することが極めて高コストになる」
しかし、ISKベースのコストは過去に失敗している。なぜなら、最大のアライアンスは最も多くのISKを持っているからだ。解決策は、ゲームメカニクスそのものに組み込まれる必要がある。
第4章:Gobbinsの遺産—コアリション生活への問いかけ
PanFamの崩壊に際して、元リーダーのGobbinsは興味深い発言を残している:
「コアリション・ゲームプレイは底辺への競争だ。両陣営が無限のアライアンスやコーポレーションを統合して可能な限り成長することを奨励される。我々は今年、リセットを通じて、また劣勢でも分離を維持することで、そのような流れに乗ることを避けてきた。大規模なコアリションなしでプレイすることで、他の多くのエンティティやパーソナリティを管理・調整する労力も減り、サーバーを壊すようなTiDi(タイムダイレーション)の大規模戦闘も避けられる」
これは、巨大コアリションのリーダー自身が、現在のシステムの問題点を認識していることを示している。
結論:変革は可能か
Nullsecの問題は、単に「巨大グループが悪い」というものではない。プレイヤーが巨大グループに集まるのは、ゲームのメカニクスがそれを奨励しているからだ。
フォーラムで指摘されているように:
「CCPは長年、巨大ブロック同士の大規模戦争を推進してきた。それは5,000の小さなコープがそれぞれ活動していては起こらない。CCPはサンドボックスを完成させなかった。領土を所有できるようにしただけで、所有した後にすることがほとんどないのだ」
変革のためには、CCPが意識的にゲームデザインを見直す必要がある。Equinox拡張で約束された「Nullsecの活性化」が実際にどのような形をとるかは、今後の展開次第だ。
しかし、過去の経験(特にChaos Era)から、プレイヤーは「不便になればプレイヤーが活発になる」という単純な論理には懐疑的だ。本当の解決策は、小規模グループにとって魅力的で、かつ達成可能な目標を提供することにある。
Nullsecの未来は、大手ブロックを罰することではなく、小規模グループを支援するインセンティブを作ることにかかっている。それができれば、EVE Onlineは再び「何百もの独立したグループが争い合う」世界に近づくことができるかもしれない。
この記事は2024年〜2025年にかけてのEVE Onlineフォーラム、Reddit r/Eve、およびコミュニティブログの議論を基にしています。
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