EVE Onlineにおける領土維持の現実


2026年2月、ドローンリージョンのThe Kalevala Expanseから、また一つのアライアンスが撤退を発表した。「SL0W CHILDREN AT PLAY」―約2,000人規模のアライアンスだ。

リーダーの Lynne Rankinは、「ああ、くそ、またかよ」の出だしで、メンバーに向けてこう発表した:

「この戦争と環境は急速にエスカレートし、我々は常に後手に回ってきた。(中略)リーダーシップ全員がリアルライフの問題に同時に直面している最中に、彼らは一斉に攻撃してきた」

「残念ながら、我々には支払うべき請求書があり、守るべき人々がいる。それがゲームから我々を遠ざけた」

そして最後に、こう宣言した:

「SLOWの将来にSov Null(領土主権を持つヌルセク活動)は含まれない」

この一文に、EVE Onlineにおける中規模アライアンスの苦悩が凝縮されている。


「勝者」の視点:10人で領土を揺さぶる

SLOWを追い詰めたのは、「PUT THE FRIES IN THE BAG(FRIES)」という勢力だった。彼らの投稿によれば:

「SOV/シタデル/月資源への圧力の大部分はFRIESが行った。この部隊は実質的に約10人で構成されている。マルチボクシングで対応した」

たった10人のマルチボクサーが、数千人規模のアライアンスとそのコアリションを追い詰め、最終的に領土放棄に追い込んだ。

これは単なる「小が大を倒した」という話ではない。EVE Onlineの領土戦争(Sov Warfare)が、いかにリーダーシップに過酷な負担を強いるシステムであるかを示している。


防衛側のジレンマ:いつ攻められるか分からない

FRIESの投稿には、こんな一節もあった:

「あなたたちの『リーダー』はDiscord PvPでコアリションを形成し、20以上のブルーリストを作成した後、ゲームにログインしなくなった」

これは皮肉として書かれているが、現実はもっと複雑だ。

アライアンスのリーダーが日常的にこなさなければならない業務を考えてみよう:

  • 外交: 近隣アライアンスとの関係構築、不可侵条約の交渉、コアリションの維持
  • ロジスティクス: 燃料補給、市場の維持、SRP(Ship Replacement Program)の管理
  • 人事: 新規メンバーの審査、問題メンバーへの対応、士気の維持
  • 情報収集: スパイ対策、敵の動向監視、脅威評価
  • 作戦計画: CTA(Call To Arms)の設定、FC(Fleet Commander)の育成、ドクトリンの整備

これらの「Discord PvP」は、ゲームにログインする前に何時間も消費する。そして、これらをこなした後に、実際のゲームプレイ―構造物の防衛、領土の巡回、敵との戦闘―が待っている。

タイマーの暴力

EVE Onlineの領土システム(Sovereignty)の核心にあるのは「タイマー」だ。構造物が攻撃されると、一定時間後に防衛戦が発生する。この時間は防衛側が設定できるが、それでも毎日同じ時間帯に防衛義務が発生することを意味する。

攻撃側は好きな時に攻撃できる。今日攻撃しなくてもいい。来週でもいい。防衛側の主要FCが休暇中のタイミングを狙ってもいい。

しかし防衛側は、常に準備していなければならない


誰もいない時間帯

SLOWはEUTZ(ヨーロッパタイムゾーン)を中心としたアライアンスだった。これが問題をさらに複雑にする。

タイムゾーンカバレッジの現実

EVE Onlineの大規模アライアンスは、複数のタイムゾーンにメンバーを持つ。Goonswarm FederationやPandemic Hordeのような巨大組織は、USTZ(北米)、EUTZ(欧州)、AUTZ(オセアニア)、そしてCNTZ(中国)にそれぞれ数千人規模のプレイヤーを抱えている。

中規模アライアンスにはその余裕がない。

SLOWは数字上2,000人以上いるが全体のアクティブは高くなく、かつPvPメンバーがさほど多いとは見えないアライアンスだった。USTZ深夜やAUTZ時間帯に攻撃されれば、リーダーシップはもちろん即応できるメンバーもほとんどいなかったと思われる。

FRIESの10人のマルチボクサーは、このアライアンスの弱点を徹底的に突いた。

「常に誰かが起きていなければならない」

大手ブロックには「Standing Fleet」(常設艦隊)があり、実質24時間活動している。中規模アライアンスには、そのリソースがない。

結果として、リーダーシップが「常に対応可能」であることを期待される。深夜に攻撃があれば、リーダーが起きて対応する。早朝に構造物タイマーがあれば、リーダーが仕事前にログインする。

これが数週間、数ヶ月と続く。


Lynneの言葉に見る燃え尽き

SLOW撤退発表の言葉を、改めて読み返してみよう:

「リーダーシップが現実の生活を整えるまでの間、仲間たちが代わりに立ち上がり、防衛線を維持しようとした。残念ながら、我々には支払うべき請求書があり、守るべき人々がいる。それがゲームから我々を遠ざけた」

これは言い訳でもなんでもなく、現実だと思う。

EVE Onlineのリーダーシップは、無給のボランティア活動だ。彼らは仕事を持ち、家族を持ち、請求書を支払いながら、数百人のプレイヤーのゲーム体験に責任を負っている。

「我々がIRLの問題に対処している間、あなたたちが経験していたすべてを見守ることしかできなかったのは、まるで『時計じかけのオレンジ』のようだった」

リーダーが現実生活の危機に直面している時も、ゲーム内の戦争は止まらない。メンバーは攻撃され、構造物は破壊され、士気は下がっていく。それを見ていることしかできない無力感。

これが「燃え尽き」(バーンアウト)の典型的なパターンだ。


大手ブロックの「規模の経済」

現在のEVE Onlineでは、領土を維持するコスト(時間、労力、精神的負担)は、アライアンスの規模に関係なくほぼ一定だ。

  • 構造物には燃料が必要
  • タイマーには防衛が必要
  • 外交には時間が必要

しかし、大手ブロックはこれらのコストを数十人のリーダーシップと数百人の戦闘員で分担できる。中規模アライアンスでは戦闘員が数十人いればいい方、リーダーシップに関しては数人もいればいい方で、彼らが基本的にすべての事案を負担しなければならない。

ドローンリージョンの「実験」

皮肉なことに、現在のドローンリージョンは「中規模アライアンスのための自由区域」として再編されようとしている。Pandemic Hordeの崩壊後、The Imperiumは以下の方針を発表した:

「我々は古いモノカルチャーのレンター帝国を焼き払った。多様なエコシステムが育つことを願う」

フリーポートKeepstarが設置され、非ブロック系アライアンスの進出が奨励されている。

しかし、SLOWの運命は、この「自由区域」の現実を示している。大手ブロックの直接支配がなくても、領土を維持すること自体が、中規模アライアンスには過酷すぎるのだ。


関連リンク


この記事はEVE Online Reddit r/Eveの投稿および関連資料を基に作成しました。

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