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【EVE活シリーズ】英雄ではなく「一人前」になる快楽 – nejico

【EVE活シリーズ】英雄ではなく「一人前」になる快楽 – nejico

EVEオンラインの美点は、1人で1000人をなぎたおす大英雄に「なれない」ところだ。

振り返れば、ゲームの中であらゆるロールプレイを体験してきた。
世界を守る勇者、戦争の指導者、裏社会をなりあがるアウトロー、巨大企業の経営者、宇宙最高の農家…。
何にだってなれる。そしてその無限の可能性にたぶん私は疲れていた。

自分の能力とその限界のおおよそはすでに把握してしまい、それを伸ばすには地道な練習・勉強以外の方法がないことも理解した。
自分の手にあまる大役にはひととき心が踊るものの、映画を1本見るくらいの時間がピークでRPGのストーリーを1周するのが上限ギリギリ。それ以上は高揚感が目に見えて減っていく。

EVEは、そんな空白をするりと飲み込むゲームだった。
NEW EDENで1人の人間がどれほど頑張っても、世界を征服するどころか宇宙の1エリアを領有することさえ夢のまた夢。ほとんどのプレイヤーがなれるのはせいぜい「きっちり1人分の働きをするパイロット」が関の山である。

それでいて「きっちり1人分」の設定が、やはり現実社会よりはずいぶん甘い。準備さえすればそれなりに何事かを成し遂げられる、という気にさせてくれる。通りがかりの大型戦艦を宇宙の塵にしたり、市場に流通する商品を買い占めて価格操作することも可能だ。

100人以上が参加する大規模戦闘だって、1人が欠ければ確実にその分だけ戦力は低下する。大軍を動かす司令官や大企業のCEOになるハードルはそこそこ高いけれども、現実社会で同じポジションにつくよりはさすがに低いだろう。

自分はこの宇宙で存在感を発揮している、組織に貢献しているという所属欲求と自己効能感、そして自分がいなくても世界は変わらず回っていく無力感。このバランスがちょうどいい。

もちろん小さな不満はいくつもある。
小さな組織でささやかな領土を経営する遊び方はもう少し手軽でいいと思うし、そもそも「1人分の働き」をするために必要な準備時間も破格に重い。本当にこれは2021年のゲームなのか。

それでも「30秒で腕前まで見繕って対戦相手をマッチングしてくれるストレスフリーなゲーム」が主流になった現在において、EVEの“適度に”ストレスフルなゲーム性は貴重だ。末永く遊びたい。