この記事は発展途上のチュートリアルです。 EVE FrontierのSuiブロックチェーンへの移行は2026年3月末のCycle 5で予定されており、開発ツール・ドキュメントともに日々更新されています。本記事の内容は執筆時点(2026年3月)の情報に基づいており、今後変更される可能性があります。


はじめに——プログラミング経験がなくてもSmart Assemblyを作れるか?

EVE Frontierは、プレイヤーがゲーム世界そのものを構築できるスペースサバイバルMMOだ。その中核にあるのがSmart Assemblies——タレット、ゲート、ストレージユニットなど、プレイヤーが自分のコードで機能をカスタマイズできるゲーム内構造物である。

従来、Smart Assemblyの開発にはSolidity(Ethereum系のスマートコントラクト言語)の知識が必要だった。そして2026年3月、EVE FrontierはSuiブロックチェーンへ移行する。これに伴い、開発言語もSui Moveに切り替わる。

正直に言えば、プログラミング経験のない人間がMove言語をゼロから学んでSmart Assemblyを独力で完成させるのは高いハードルだ。しかし今、Claude CodeをはじめとするAIコーディングエージェントの進化がその障壁を下げつつある。

この記事は、プログラミング未経験者がAIの力を借りながらSmart Assembly開発に踏み出すための第一歩——開発環境の構築に焦点を当てる。コードを1行も書かない段階だが、ここを乗り越えることが全ての出発点になる。


2つのリポジトリを理解する

EVE Frontierのビルダー向けリポジトリは現在、新旧2つが存在する。これを混同すると無駄な時間を費やすことになるので、最初に整理しておく。

旧リポジトリ: projectawakening/builder-examples

URL: https://github.com/projectawakening/builder-examples

こちらはEthereum/Solidity/MUDフレームワークベースの旧版サンプル集だ。言語構成はSolidity 59.2%、TypeScript 26.3%で、Moveのコードは一切含まれていない。開発ツールもFoundry + Forge + Anvil(いずれもEthereum開発ツール)を前提としている。Star数89、Fork数48と、コミュニティでは広く使われてきた実績がある。

2026年3月のSui移行後、このリポジトリのコードはそのままでは動作しない。 学習資料としての価値はあるが、新規開発のベースにすべきではない。

新リポジトリ: evefrontier/builder-scaffold

URL: https://github.com/evefrontier/builder-scaffold

こちらがSui Move対応の新しい公式ビルダーリポジトリだ。言語構成はTypeScript 72.8%、Move 15.0%、Shell 9.2%で、Move言語によるSmart Assemblyサンプルが含まれている。

このリポジトリの構成は以下の通りだ。

ディレクトリ内容
move-contracts/Smart AssemblyのMoveコントラクト例(smart_gateなど)
ts-scripts/コントラクトを呼び出すTypeScriptスクリプト
setup-world/ワールドデプロイの手順と設定
dapps/リファレンスdAppテンプレート
docker/Sui CLI + Node.jsを含む開発コンテナ
zklogin/OAuthベースのサインイン(zkLogin)CLI
rust-scripts/Rustスクリプト群

Star数1、コミット18と非常に新しいリポジトリであり、Issueも10件オープンの状態だ。発展途上ではあるが、Sui移行後のSmart Assembly開発はこちらが正式な出発点になる。


開発環境の構築——2つのパス

builder-scaffoldでは、開発者のスキルレベルに応じて2つの開発パスが用意されている。

Dockerパス——環境構築のハードルを最小にする

推奨対象: プログラミング未経験者、SuiやNode.jsをインストールしたくない人

Dockerパスでは、Sui CLIやNode.jsをホストマシンに直接インストールする必要がない。全てがDockerコンテナ内で完結する。必要なのはGitとDockerの2つだけだ。

Hostパス——ローカル環境でフルコントロール

推奨対象: Sui CLIやNode.jsの操作に慣れている人

ホストマシンにSui CLIとNode.jsを直接インストールし、ローカル環境で開発する従来型のフロー。より柔軟な操作が可能だが、環境構築の手間は増える。

非プログラマーには圧倒的にDockerパスを推奨する。 以下、Dockerパスを前提に解説する。


Step 1: Gitのインストール

Gitはソースコードのバージョン管理ツールだ。リポジトリのクローン(ダウンロード)に必要になる。

Windows

git-scm.com からインストーラーをダウンロードして実行する。インストール時の設定はすべてデフォルトのままで問題ない。

macOS

ターミナルを開いて以下を実行する。Xcodeのコマンドラインツールに含まれているため、追加インストールが求められた場合は許可する。

git --version

Linux (Ubuntu/Debian)

sudo apt update && sudo apt install git

インストール確認

以下のコマンドでバージョン番号が表示されれば成功だ。

git --version

Step 2: Dockerのインストール

DockerはアプリケーションをコンテナというOS単位の仮想環境のなかで実行するためのツールだ。Sui CLI、Node.js、その他の開発ツールを手動でインストールする代わりに、Dockerコンテナが全てをまとめて提供してくれる。

Windows

  1. Docker Desktop for Windows をダウンロードしてインストール
  2. インストール中にWSL 2(Windows Subsystem for Linux)の有効化を求められた場合は有効にする
  3. Docker Desktopを起動し、右上の設定(歯車アイコン)から Resources > WSL Integration でUbuntuの統合を有効化

macOS

  1. Docker Desktop for Mac をダウンロードしてインストール
  2. Apple Silicon(M1/M2/M3/M4)の場合はApple Chip版を選択

Linux (Ubuntu/Debian)

sudo apt update
sudo apt install docker.io docker-compose-v2
sudo usermod -aG docker $USER

最後のコマンド後、一度ログアウトして再ログインする。

インストール確認

docker --version
docker compose version

両方でバージョン番号が表示されれば成功だ。


Step 3: リポジトリのクローン

ターミナル(Windowsの場合はWSL/Ubuntu、またはGit Bash)を開き、以下のコマンドを順に実行する。

mkdir -p workspace && cd workspace
git clone https://github.com/evefrontier/builder-scaffold.git
cd builder-scaffold

これでbuilder-scaffoldの全ファイルがローカルにダウンロードされる。


Step 4: 中身を確認する——AIに読み解いてもらう

ここからがAIアシスト開発の真価を発揮する場面だ。

リポジトリをクローンしたら、ファイル構成を確認しよう。ターミナルで以下を実行する。

ls -la

表示されるファイルとディレクトリの一覧が、先ほどの表で紹介した構成に対応している。

プログラミング未経験者にとって、ここから先の各ファイルの役割を理解するのは難しく感じるかもしれない。だが心配はいらない。Claude Code1を使えば、リポジトリの全体構造を一瞬で把握できる。

Claude Codeの場合

Claude Codeをインストール済みであれば、builder-scaffoldディレクトリ内で以下のように話しかけるだけでよい。

claude

Claude Codeが起動したら、こう聞く。

このリポジトリの構造を説明してください。move-contracts/にあるsmart_gateのコードは何をしていますか?

Claude Codeはリポジトリ内の全ファイルを読み込み、ディレクトリ構成、各ファイルの役割、smart_gateのMoveコードのロジックまで、日本語で解説してくれる。


Step 5: ローカルワールドの起動

builder-scaffoldには、EVE Frontierのワールド(ゲーム世界のブロックチェーン環境)をローカルマシン上に再現するためのDocker構成が含まれている。

Dockerパスの場合、基本的なワールドの起動は以下のコマンドで行える。

docker compose up -d

このコマンドは、バックグラウンドでDockerコンテナを起動し、ローカルのSuiネットワーク上にEVE FrontierのWorld Contractsをデプロイする。初回起動時はイメージのダウンロードに数分かかる。

進行状況は以下で確認できる。

docker compose logs -f

ワールドのデプロイが完了すると、ワールドアドレスなどの情報がログに表示される。この情報は後でコントラクトのデプロイ時に必要になるので、メモしておこう。

注意: この手順はbuilder-scaffoldのREADMEに記載されているdocs/builder-flow-docker.mdのガイドに基づいている。リポジトリは日々更新されているため、最新の手順は必ず公式ドキュメントを確認してほしい。


Step 6: Move言語のサンプルコードを眺める

ローカルワールドが起動したら、いよいよSmart Assemblyのコードに触れる段階だ。

builder-scaffoldのmove-contracts/ディレクトリには、smart_gateのサンプルコードが含まれている。このSmart Gateは、特定のTribe(部族)のメンバーだけが通過を許可されるゲートの実装例だ。

ここでもClaude Codeが力を発揮する。

move-contracts/smart_gate/のコードを読んで、何をしているか日本語で解説してください。各関数の役割と、アクセス制御のロジックがどう実装されているかを教えてください。

Claude Codeは、Move言語の文法を知らなくても理解できるレベルで、コードの構造とロジックを説明してくれるはずだ。

Move言語について最低限知っておくこと

ここでは詳細に踏み込まないが、以下の最低限の理解があるとClaude Codeとの対話がスムーズになる。

Move言語はSuiブロックチェーン専用のスマートコントラクト言語だ。Rustに似た文法を持ち、デジタル資産の安全な管理に特化して設計されている。最大の特徴はオブジェクト中心のモデルで、ゲーム内のあらゆるアセット(船、構造物、アイテム等)がそれぞれ独立した「オブジェクト」としてブロックチェーン上に存在する。

Solidityと比較した場合の重要な違いとして、Moveでは再入攻撃(re-entrancy attack)のような脆弱性が言語レベルで構造的に不可能になっている。これは、プレイヤーが作成したコードを共有宇宙にデプロイするEVE Frontierのようなゲームにとって、安全性の面で大きなアドバンテージだ。


ここまでで何ができたか

この環境構築が完了した時点で、手元には以下が揃っている。

  • EVE FrontierのSui Move対応ビルダーリポジトリ(builder-scaffold)
  • Dockerによるローカル開発環境(Sui CLI、Node.js、ワールドコントラクト)
  • Smart Gateの実動するMoveコードサンプル

つまり、Smart Assemblyのコードを読み、改変し、ローカルワールドにデプロイしてテストするための土台が整った状態だ。


次のステップ——AIとともにコードを書く

環境構築はゴールではなく出発点だ。次のステップとして以下が考えられる。

サンプルの小さな改変から始める。 smart_gateのアクセス条件を変更してみる。例えば「特定のTribeメンバーのみ通過可能」というロジックを「特定のアイテムを持っているプレイヤーのみ通過可能」に変えるとしたら? Claude Codeに「このsmart_gateのアクセス条件を、Tribe所属ではなくアイテム所持に変更したい」と伝えれば、具体的なコード変更案を提示してくれる。

TypeScriptスクリプトでコントラクトと対話する。 ts-scripts/にあるスクリプトを使えば、デプロイしたSmart Assemblyにコマンドを送れる。TypeScriptはClaude Codeが最も得意とする言語の一つだ。

dAppテンプレートからUIを作る。 dapps/のリファレンステンプレートをベースに、自分のSmart Assembly用のWebインターフェースを構築する。これもTypeScript/React領域なので、AIアシストの恩恵が大きい。


注意事項と免責

リポジトリは発展途上

evefrontier/builder-scaffoldはStar数1、コミット18の非常に新しいリポジトリだ。Issueも10件オープンの状態であり、今後大きな構造変更が入る可能性がある。定期的に git pull で最新版を取得することを推奨する。

AIが生成したコードの検証は必須

2026年2月に、AIが共同作成したスマートコントラクトの脆弱性が原因でDeFiプロトコルが約180万ドルの損失を被った事例が報告されている。Smart Assemblyはブロックチェーン上にデプロイされ、他のプレイヤーが直接触れるものだ。AIが生成したコードは必ず人間がレビューし、テストネットで十分にテストしてからライブ環境にデプロイすること。EVE FrontierのDiscordコミュニティには経験豊富なビルダーがいるので、レビューを依頼するのも有効だ。

旧ドキュメントとの混在に注意

検索エンジンでEVE Frontier Smart Assemblyの情報を探すと、旧Solidity/MUD版のドキュメントやチュートリアルがヒットすることがある。Sui移行後はこれらの手順はそのままでは使えない。公式ドキュメント(docs.evefrontier.com)が新しいSui/Move対応の構成に更新されつつあるので、常に最新版を確認すること。


まとめ——AIがゲームModを書く時代の入口

EVE Frontierが目指す「プレイヤーが世界を構築する」というビジョンと、AIコーディングエージェントの進化は驚くほど相性が良い。

これまでゲームModの世界には暗黙の参入障壁があった。プログラミング言語の習得、フレームワークの理解、デバッグの技術——これらを持たないプレイヤーは、どんなに面白いアイデアを持っていても「作る側」に回ることができなかった。

しかしClaude Codeのようなツールは、その障壁を着実に下げている。リポジトリの構造を読み解き、Moveコードの意味を解説し、改変案を提案し、テストの実行まで支援してくれる。完璧ではないが、「1行もコードを書けない」と「Smart Assemblyをデプロイできる」の間にある巨大な溝を、AIが橋渡ししてくれる時代が始まっている。

そしてこのスキル——「AIとともにコードを書く」という能力——は、EVE Frontierに限った話ではない。ブロックチェーンゲーム、自律型ワールド、プレイヤー駆動経済。これらの世界で「アイデアを持つ人」が「作る人」に変わるための架け橋を、AIが提供し始めている。

まずは環境構築から。ターミナルを開いて、git cloneを打つところから始めよう。


リンク集

リソースURL
builder-scaffold(Sui Move対応・新)https://github.com/evefrontier/builder-scaffold
builder-examples(Solidity版・旧)https://github.com/projectawakening/builder-examples
EVE Frontier ビルダードキュメントhttps://docs.evefrontier.com
EVE Frontier ホワイトペーパーhttps://whitepaper.evefrontier.com
EVE Frontier Discordhttps://discord.gg/evefrontier
Sui Move 公式ドキュメントhttps://docs.sui.io
Claude Codehttps://claude.com/product/claude-code
  1. おそらく本記事のような開発となるとPro以上の有料版になるかと思われ。 ↩︎

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