
https://www.eveonline.com/news/view/a-new-era
2026年5月6日、EVE Onlineの開発元であるCCP Gamesから「新時代」というタイトルの新しい発表があった。2018年から同社を傘下に置いていた韓国のPearl Abyssから経営陣による買収(MBO)を完了し、「Fenris Creations(フェンリル・クリエイション)」という新社名のもと、再び独立企業としての歩みを始めるというのだ。
来週に迫ったFanfest 2026(5月14〜16日、レイキャヴィクのハルパ・コンサートホール)を前にしたこのタイミングでの発表。単なる社名変更ではない。これはEVE Onlineというゲームの根幹に関わる構造的な転換であり、プレイヤーコミュニティにとっても大きな意味を持つ出来事だ。
何が起きたのか
CCP GamesのCEO、Hilmar Veigar Péturssonが、Pearl Abyssから自社を1億2,000万ドル(約180億円)で買い戻した。内訳は現金1億ドルとEVE Frontierのトークン2,000万ドル分とされている。
Pearl Abyssが2018年にCCPを買収した際の価格は2億2,500万ドル(ボーナス込みで最大4億2,500万ドル)。つまり、ほぼ半額での買い戻しということになる。Pearl Abyss側はCCP運営で2024年に1,900万ドルの年間赤字を計上するなど財務的に厳しい状況が続いており、自社タイトル「Crimson Desert」の好調(発売以来500万本以上を販売)もあって、ポートフォリオの再編を決断した形だ。
新会社「Fenris Creations」の名前は北欧神話のフェンリル(Fenris)に由来する。だがそれだけではない。1997年の創業期、CCPが最初に世に送り出したゲームのタイトルに「Fenris」の名が使われていたのだ。ヒルマルCEOはこの名前の選択について、「仮想世界が意味を持つためには、リスク、喪失、再生、そしてそこに住む人々によって形作られなければならない」という創業以来の信念を体現するものだと述べている。
チーム・開発体制は変わらない
発表の中で繰り返し強調されているのが、**「何も変わらない」**という点だ。
- レイキャヴィク、ロンドン、上海のスタジオはそのまま
- EVE Online、EVE Frontier、EVE Vanguard、EVE Galaxy Conquestの開発チームは全員残留
- リストラや組織再編の予定なし
- クリエイティブの方向性・リーダーシップも変更なし
これは買収劇でありがちな「表向きは何も変わりません」という空虚なリップサービスとは少し違う。CCPの場合、実質的にヒルマルCEO自身が買い戻しているのだから、経営の連続性は最も高い形で担保されている。しかし経営陣が1億ドルの買収資金をポケットマネーから出したとは考えにくく、今後この資金を提供したのが誰か、注目される。
Google DeepMindとの研究パートナーシップ
独立発表と同時に明らかにされたのが、Google DeepMindとの研究提携だ。これは単なるマーケティング上のアピールではなく、かなり本質的なコラボレーションの可能性を秘めている。
Google DeepMindといえばAlphaGoやAlphaStarで知られるAI研究の最先端機関だ。AlphaStarはStarCraft IIをプロレベルで攻略したことで有名だが、EVE Onlineはその複雑さにおいてStarCraft IIとは次元が異なる。数千人規模のプレイヤーが同時に相互作用し、経済・政治・軍事が有機的に連動する「生きた世界」——これほど汎用AIの研究に適した環境は他にないだろう。
Google DeepMindのDirector、Alexandre Moufarek氏は「EVEコミュニティがヒルマルとチームとともに作り上げたものは、ゲーム史において本当に前例がない。汎用人工知能を安全なサンドボックス環境でテストするための唯一無二のシミュレーションだ」とコメントしている。
重要なのは、この研究はTranquilityサーバー(本番環境)には接続しないオフライン版EVEで行われるということ。つまり、現行のゲームプレイに直接影響が出ることはない。しかし、将来的にAIがNPCの行動ロジックや市場シミュレーション、あるいはまったく新しい形のコンテンツ生成に応用される可能性は大いにある。
Fanfest 2026では、Google DeepMindの創設メンバーの一人であるAdrian Bolton氏がステージに登壇予定。詳細はそこで明かされるだろう。
EVE Onlineの現在地
ヒルマルCEOは発表文の中で、EVEが「ここ数年で最も強い結果」を出していると述べている。2025年は記録的な11月を含む好調な四半期を達成し、20年以上の歴史の中でも最強クラスの業績だったという。
これは数字だけの話ではない。ゲーム内でも大規模な動きが続いている。Imperium対WinterCoの大戦争、Atiothの戦いでの記録的な参加者数、RMC連合の形成と瓦解、PanFamの政治的混乱——New Edenは確かに「生きている」。プレイヤーがアンドックし、コーポレーションが勢力を拡大し、アライアンスが策謀を巡らせ、市場が動いている。
この活況がCCPの財務を支え、独立を可能にしたというのは、まさにEVEが「プレイヤーの世界」であることの証明だ。
考察:この独立が意味すること
ブロックチェーンとAIへの本格的な賭け
買収資金の一部がEVE Frontierのトークンで支払われていること、a16zやBitkraftから4,000万ドルの資金を調達していること、そしてGoogle DeepMindとの提携——CCPは明らかに従来のMMO運営会社とは異なる方向に舵を切っている。
EVE Frontierはブロックチェーン技術を活用したサバイバルMMOとして開発が進んでおり、CarbonツールのオープンソースやSuiブロックチェーンとの統合など、「分散型ゲーム運営」というビジョンを具現化しつつある。これが成功するかどうかは未知数だが、少なくとも賭けの規模は本気だ。
今月開催のFanfest 2026は興味深いイベントになる
5月14〜16日のFanfest 2026は、独立後初のファンイベントとなる。Google DeepMindとの提携詳細、EVE Onlineの2026年ロードマップ(年内に2つのエクスパンションが予定されている)、EVE Vanguardの最新情報、そしてEVE Frontierの進捗——発表の弾は揃っている。
以前Ozの財務レポート記事でも触れたが、CCPはPerl Abyssとファンドから提供されたEVE Frontierの開発資金をほぼ使い果たしており、新たな資金調達先を探していたはずである、今回の社名変更では資金面については触れておらず、Fanfestではその点についても新たな発表があるか関心が高まる。
来週のFanfestで何が発表されるのか。カプセラとして、そしてNew Edenの住人として、続報を楽しみに待ちたい。
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