
r/eveで白熱する「ハイセク衰退論」
CCPが次回拡張で新リージョンExordium(エクソーディウム) を発表した直後、r/eveにとあるスレッドが立ちました。「The future of Eve is decided in high-sec」 ―― EVEの未来はハイセクで決まる、というものです。
OPの主張を要約するとこうなります。
EVEは古いゲームで時代に耐えてきたが、時計の針は加速している。プレイヤー数は減りつつあるものの、残ったプレイヤーがPLEXを買いマルチボクサーが課金し続ける限り、ビジネスとしては成立している。しかしEVEには新鮮な血 ―― ハイセクに現れる新規プレイヤー ―― が必要だ。新規プレイヤーが最初に所属する1〜2のコープ/アライアンスが、その後EVEを続けるか辞めるかを決定づける。ところが現在のハイセクはAO(Absolute Order)が小規模コープのステーションを叩き潰して支配しており、ヌルセクから駆逐されたTESTまでハイセクに流れてきそうな気配だ。
スレッドは賛否両論(賛成159/反対228)の荒れ模様でしたが、今回このスレッドを軸にExordiumという施策がEVEの抱える問題にどこまで答えているかを考えてみようと思います。
Exordiumの位置づけ
Exsordiumの件に関しての詳細はアナウンスページに譲りますが、要点だけ押さえておきます。
- 53システムの新規リージョン、CONCORDとAIR管理、ハブは「Manifest」、Yulaiへのスターゲートあり
- 「スタータースペース」1.0セキュリティ層: 物理的にPvP不可、セーフティ強制グリーン
- 既存1.0システムはすべて0.9に格下げ、1.0はExordium専用の称号に
- Tier 0鉱石、制限付きハッキング/ミッション、高税率、プレイヤー構造物禁止でバランス調整
- 新規プレイヤーは全員Exordiumスタート、既存プレイヤーは現行システム継続
これを「初心者保護機能」として捉えることができますが、r/eveのスレッドを読むと、問題はもっと根深いことが分かります。
「ハイセクが沸いていた時代」の記憶
CCP最大の失敗のひとつは、ヌルセクブロックが新規プレイヤーを「難民」として吸収する仕組みを最良のオンボーディング手法と見なし、一方でハイセクを数十年放置してきたことだ。
2006〜2010年のEVE急成長期、プレイヤーのほぼ全員が「ハイセクでの生活」を語ることができた時代がありました。ミッションハブは大盛況。アマーのPenirgman(ペニルグマン)のようなシステムでd-scanを叩けば、Raven、Drake、Caracal、Hurricaneが何十隻も映る。レベル4セキュリティミッションを回すことが、ヌルセクに出ない限り「収入のピーク」に近かった時代です。
2システム移動すれば必ず「20人規模のコープで、週末ローセクロームをやる、たまに小規模ハイセクコープにウォーデックする」という勧誘に出会う。ハイセクは社交の場であり、EVEの入口であり、多くのプレイヤーにとっては終着点でもあったのです。
現代のハイセクは「ゴーストタウン」
スレッドの他のコメントも同じ観測を共有していました。
- 「今はゴーストタウンだ」
- 「Jitaに1000人の技術的制限があった頃、Amarr/Rens/Dodixieの交通量は今の2〜3倍あった。ハイセク探索中の偶発的な出会いなんて今は存在しない」
- 「学校の友人がEVEをやっていると知って、Kusomonmon(クソモンモン)のコープに入ってそこで暮らした。初めてのパイラシー体験はローセクベルトラットをしていた自分を、Hurricane乗りに身代金要求されたこと ―― これが自分がEVEを愛する大きな理由」
ここには生存者バイアスも働いています。過去10年で参入したプレイヤーは「ハイセクで何かをしたこと」がない比率が高く、彼らにとってハイセクは「くだらない時間の無駄」に映る。
しかし、EVEが最も速く成長していたのは、プレイヤーたちがハイセクでもぐもぐしながら「良い仲間がいる」と感じていた時代だった ―― かもしれません。
ハイセクを殺した3つの要因
スレッド議論を整理すると、現代のハイセクが活気を失った原因は以下の3点に集約できます。
要因① 蔓延するGanking経済
Pieuvre13の体験談では、ハイセクの行き止まりシステムで独自の産業セットアップを楽しんでいたが、ガンカー(Ganker)のせいで「クールな船」(Orcaなど)を飛ばすのが危険になり、巨大コープに所属しない限り産業活動が持続不可能になった。結果、「ゲームの中間層」から上がれず、息子と遊ぶためだけにログインする状態に。
ガンカーが戦いたいなら、ローセクかヌルセクに行けばいい。ゲームシステム側で彼らをハイセクから追い出し、岩を削って数Mを稼ごうとする新規プレイヤーを煩わせるのを止めるべきだ。
別のユーザーが決定的な指摘を補足します。
ガンキングの蔓延がゲームを殺している。ガンカーは「昔は5倍簡単だった」と愚痴るが、当時はハイセク人口が20倍だった。個人が遭遇する確率はむしろ低かった。
そしてバリュープロポジションの崩壊 ―― ミッション報酬は10年前と同じなのに、艦の価格は激増した。 リスクは上がり、リターンは据え置き。これで新規プレイヤーがハイセクに定着するわけがありません。
要因② ヌルセクブロックの「新兵吸引パイプライン」
帝国スペースは個性を生む場所だった。かつて新規プレイヤーの形成期は「単純作業に飽きて独立を目指した人々」によって決まっていた。今の新規プレイヤーは巨大ブロックとその内部サブユニット(sig)によって、主体性を完全に剥ぎ取られている。
No Stupid Questionsスレッドで「このミッション艦/立ち回りはどう?」と質問するたびに返ってくる答えは「ヌルセクに行け」。ゲーム開発は負のフィードバックループに陥っている ―― 新規が定着しない→新規向け投資しない→ベテラン向けコンテンツを出す→ベテランはマルチボックスで稼ぎシングル新規の2.6倍の課金価値がある→繰り返し。
ヌルセク勢力がハイセクで意味ある存在感を示したことは一度もない。POS/Citadelを叩くのもJitaでスパムするのも「プレゼンス」ではない。結果としてハイセクは、1〜4人の小規模コープが新規を拾い上げ、大半は数週間で放置されて朽ちていく草刈り場になってしまった。
要因③ ハイセク/ローセク間の巨大な断絶
ハイセクのほぼ完全な安全から、ローセクの実質的な無法地帯まで、ジャンプゲート1本で移行するのはゲームデザインとしてもロア的にも悪い。狩り・狩られ行為は、コンテンツ(ミッション、ベルト、探索サイト)上で発生するべきで、ゲート/ステーションではない。ゲートキャンプで「コンテンツ」を得る少数派のために、多くのプレイヤーの体験を犠牲にすべきではない。
あるユーザーは具体的提案まで踏み込みます ―― CONCORDが応答するが倒せる、ゲート/ステーションガンはスクラム/ウェブをかける、という中程度セキュリティ層の新設。リスクに見合った報酬を設計できれば、新規プレイヤーの「リスク許容度の漸進的拡大」につながるという主張です。
プレイヤー数論争 ― 本当に減っているのか
並行して白熱したのが、「EVEのプレイヤー数は実際どうなのか」論争でした。
「減っている」派
- 「同時接続キャラクター数はプレイヤー数ではない。平均2.6アルト/人で割るべき」
- 「eve-offline.netで見れば、2021〜22年の急落ほどではないが、減少トレンドは続いている」
- 「20,000の同時接続のうち、半分以上はアルトとBotだ」
「増えている」派
- 「現在のピークキャラクター数は2016年と同水準。「2009〜2014が最盛期」というのは確かだが、「減っている」の比較対象は何なのか?」
- 「2022年11月(Hilmarの暗号/NFT実験と月33%値上げ直後)の平均同時接続は16,000人未満だった。2エクスパンション/年ペースに戻した結果、先月は24,000人以上 ―― 3年半で50%増」
- 「CCPの2025年売上は2022年比15.8%増。最新のPearl Abyss決算では「Q4 2025がPearl Abyss買収後(2018年10月)の7年間で過去最高売上」と明言された」
- 「プレイヤー数が減ってるという発言は自分がEVEを始めた2012年からずっと聞いている。根拠なく自信満々に繰り返されるだけだ」
プレイヤー数はデータ上は回復局面にある一方、ベテランの体感では「ハイセクが空っぽ」という感覚が確かに存在する。これは「中核的なプレイヤー活動が集中している場所」(ヌルセク大規模戦、WH、Abyssal、アブリス)と、「新規が最初に目にする場所」(ハイセク)がずれている構造問題だと考えられます。
ExordiumはEVEの病を治すか
ここで本題です。Exordiumは、r/eveで指摘された問題にどこまで答えているのか?
✅ 対応されている問題
新規プレイヤーのガンキング被害: Exordium内はPvP物理的に不可能。最初の数日でイモレーター級の蒸発を食らう悲劇は消える。
友人との合流: 帝国別分散配置を廃止し、全員同一リージョンスタート。
メンター導線: Manifestハブに追加オフィススロット。Mike Azariah氏の「Magic School Bus」やKshal Aideron氏のEVE Rookiesのような活動が効率化される。
⚠️ 部分的にしか対応されていない問題
ハイセク本体の空洞化: Exordiumは「保護区」であって、その先のハイセクの活気を取り戻すものではない。卒業した新規プレイヤーは結局、「ゴーストタウン化したハイセク」に放り出される。保護区が存在することで、むしろ「ハイセク卒業時のショック」が大きくなる可能性すらある。
ミッション経済: Exordium内は低難易度・低報酬。卒業後に待ち構えるレベル4セキュリティミッションの報酬は10年前と同じで、艦価格は跳ね上がったまま。つまり「卒業=経済的メリットの消失」を意味する。
❌ 対応されていない問題
ヌルセクブロック吸引パイプライン: Exordiumを卒業しても、「ヌルセクに行け」合唱は変わらない。CCPが帝国空間のコンテンツ自体をアップデートしない限り、独立系小規模コープ文化の復活は絵空事。
マルチボクシング問題: 新規プレイヤーの課金価値がマルチボックスベテランの1/2.6にしかならない構造は、Exordiumでは解決不能。CCP側の課金設計そのものの問題。
ハイセク/ローセク断絶: 1.0(Exordium)→ 0.9〜0.5(ハイセク)→ 0.4〜0.1(ローセク)の段階は維持される。1.0が「物理的にPvP不可」になったことで、むしろ断絶はより鋭角になったと言える。ScrotumHolster氏が提案した「中間セキュリティ層」のような構造改革はなされていない。
ボーダーゲートキャンプ: YulaiとExordiumの境界が、卒業直後の希少艦・未練成キャラを狙うギャンカーの新たな聖地になる可能性が高い。保護と外界の接面が鋭ければ鋭いほど、境界の狩場価値は上がる。
日本コミュニティへの意味
日本のEVEプレイヤー視点で補足すると、Exordiumは日本語話者の新規定着に追い風になりえるのでしょうか。
- 新規プレイヤーが全員同一リージョン → 日本語コープが勧誘しやすい
- 安全な学習環境 → 日本語レクチャー動画を落ち着いて提供できる
- メンタリング導線強化 → 日本人ベテランがスクールバス的活動を展開しやすい
- 帝国別の分散がない → 「ミンマターで始めた人とアマーで始めた人が合流できない」問題が消える
一方で、新規が陥る「孤独感」は日本語コミュニティでも深刻です。日本人コープが通える活気あるハイセクハブがどこにあるのか、という問いは依然として課題のままです。日本人コミュニティ主導でExordium卒業生を「受け皿」として組織化できるかどうかが、この機会を活かす鍵になるでしょう。
結論 ― Exordiumは始まりに過ぎない
とあるユーザーの表現を借りれば、EVEは「ハイセクを数十年放置してきた」のであり、Exordiumは遅ればせながらの第一歩です。
新規プレイヤーが最初の数日を無事に過ごせるようになるのは確実な改善ですが、本当の問題 ―― 帝国空間の経済的魅力、独立系小規模コープ文化、ヌルセク一極集中構造の緩和、ガンキング経済のリバランス、マルチボクシング問題 ―― にはExordium単独では手が届きません。
CCPが今夏の拡張で「ハイセク全体のアップデート」をどこまで踏み込むかが、「EVEの未来」を決めます。Exordiumが「ルーキー避難所」で終わるのか、それとも「ハイセク再生プロジェクト第一弾」となるのか ―― Fanfestでの追加発表を注視する必要があります。
筆者はかってUltima Online(UO)が日本でサービスを開始した当初よりプレイしていました。EVEOnlineと同じからさらにハードコアな仕様(街中の銀行前でも犯罪に巻き込まれる)で有名なMMORPGでしたが、ある時に、PvPを好まないプレイヤーを保護するために、トランメルというExordiumと同じコンセプトの世界が追加されました。その結果PKや盗賊や海賊といったRPの停滞と、モノとカネが失われることなく無限に増え続けることによる経済の崩壊により、PvPとPvE両方のプレイヤーが去るという悪循環に陥りました。
EVEもUOと同じ道を辿るのか、気になるところです。
参考:
- CCP Games公式デブブログ「Introducing Exordium」
- r/eve「The future of Eve is decided in high-sec」スレッド
- Jester’s Trek ACU(Average Concurrent User)データ
- Pearl Abyss 2025年Q4決算発表
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