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【EVE活】老兵、夢の世界へ -donichi-

【EVE活】老兵、夢の世界へ -donichi-

今年の夏は蝉の鳴き声が聞こえなかったな、
そんなことを思いながら画面に映る壁紙をぼんやりと見つめながら生ぬるいビールを飲んだ。

在宅勤務で仕事とプライベートの境界がなくなり仕事に忙殺されながら、
残された時間を家族と過ごす日々が続く。

「充実しているじゃないですか」と嘲笑にも似た笑いを顔に浮かべながら「だからオレは結婚しないんだよ」と鼻につくような雰囲気を出しながら会社の若手は賛辞を送ってくれる。 

眠りにつくことが非現実となる日々に、魂は墓地に置かれ朽ち果てた彼岸の菊のようになってきた。

やがてそこに眠る人々同じく塵となるように。
くたびれた魂が私に語りかける、人は残酷な現実だけを直視して生きることは出来ないのだと。
枯れ果てる前の叫びである。

そんな魂に一息入れようと10年越しのPCを立ち上げる。
組み立てた当時はハイスペックと呼ばれたPCも今では普通のノートPCと同じである。
積もった埃を誕生日の紙吹雪のようにまき散らしながらファンが回り始める。 

そこには現実しか待ち受けていなかった。 

Call of Duty, Advanced Warfare

最後にプレイした 2015年8月

プレイ時間 3.4時間 

そんなSteamの画面を見ながら船酔いのようにゲーム酔いしてしまう自分を思い出した。
老いた体はジェットコースターの様に動き回る画面について行けず10分も立たずに酔ってしまうことを思い出した。

そんな現実を恨めしく思いつつほとんど終了させていない大量のゲームのリストを見ながら持って行きようのない諦めを生ぬるいビールと一緒に飲み込んだ。
当てもなくインターネットをさまよいながら酒を飲み続け酩酊し深海のそこに沈んでいく意識の中で、昔聞いたゲームの名前を思い出した。

EVE ….

翌日、昔のように酒が抜けきらないことに悪態をつきながらどんよりと曇り今でも雨が降ってきそうな意識の下で、ゲームに毎月課金するというコンセプトが受け入れられず始めなかったゲームがあったことを思いだした。 

YouTubeに行き EVE と検索するが、あまりにも漠然とした要求にYouTubeもつかみ所のない検索結果を返してくる。
怠けずに EVE game と入力する。 
門前の壁をつたう雑草のように出てくる検索結果にうんざりしながら比較的最新の初心者向けに良い動画はないかと探す。

一つのYouTube(*1)アカウントが10動画一セットで入門編を解説している。
ゲームを始める前にこんなに下調べが必要なのかと閉口しながら動画を一つずつ見ていく。

ゲームを始めずともその足がかりとなる入門動画で多様なプレイスタイルと広大な世界観に、めまいと不安を覚えた。 それはまるで大聖堂に入ったときに感じる開放感と共に感じるめまいと砂浜の裏手にある沖合に一人で泳ぎに行ったときの底の見えない海に感じたなんとも言えない恐怖感だった。

始めてみないことには何も始まらないと自分に言い聞かせ、歩き始めた赤ん坊のように恐る恐るゲームを始める。
神田の古本屋を巡るように情報を紐解きデジタル世界の先人の声を聞きながらゲームを進めて行くとそこにあるのは現実社会を映し出した様な非現実世界だった。

デイトレーダーの様に日銭を稼ぐトレーディングだけする人々達、ソマリア沖で安い船に乗ってタンカーを集団で狙う海賊達のように宇宙に浮かぶ巨大船を集団で襲うフリート、一昔前の命がけで石炭を採掘するような採掘者達。 コロンビアから潜水艦でコカインを運ぶのかのように光学迷彩で敵の目をくぐり物を運ぶ運び屋。 強大な組織を運営し組織運営に命をかける経営者達。
そこには数え切れない自由と暴力があった。 そんな理不尽な世界に手を差し伸べてくれる友人達もいる。

そしてそこには若き人々達だけが持ち得る反射神経以外も必要とされる世界だ。
人生の折り返し地点を過ぎた魂には忍耐力がある。
早急に結果を求めて返ってくるのは屠殺にも近い暴力と絶望だけだ。

そんな世界に一人、また一人と自分の分身を作り出していく。
いつになるか分からないがいつかこの世界に羽ばたき友人達と共にこの世界を謳歌するために。
そしてこのくたびれた魂がまた息吹き返しこの世でもまた羽ばたくために。

*1 AceFace – https://www.youtube.com/@Aceyface