キルメール ~kill統計の真実~

2025年のEVE Online ファンフェスティバルで、CCPのデータチームによる「キルメール」に関する興味深いプレゼンテーションが行われました。データサイエンティストのCCP LarrikinとシニアデータエンジニアのCCP Dataが登壇し、EVE Onlineにおけるキルメールシステムの歴史から最新の改良まで、技術的な詳細を交えて解説していました。

キルメールの歴史 – 「メール」と呼ばれる理由

初期のEVE Online (2003-2004年)

現在のプレイヤーの多くが知らない事実として、キルメールが「メール」と呼ばれる理由があります。2003年後期から2004年初期にかけて、キルメールは文字通り、ゲーム内のメールシステムを通じて送信されていました。

プレイヤーが他のプレイヤーを撃破した場合、またはプレイヤーが撃破された場合、加害者と被害者の両方にゲーム内メールが送信されていました。これらのメールには、撃破に関する詳細がテキストブロックとして含まれており、プレイヤーはこの情報をコピー&ペーストして外部のキルボードに投稿していました。

しかし、この初期システムには重大な問題がありました。メールの内容に対する検証機能が存在しなかったため、一部のプレイヤーがテキストを改ざんして事実と異なる内容を投稿することがあったのです。

API キルメールの導入 (2007年)

CCPは約3年後、プレイヤーがキルメールを非常に重視していることに気づき、2007年後期により信頼性の高い APIキルメールシステムを導入しました。これが現在私たちが使用しているシステムの基礎となっています。

第1号のキルメール(Kill ID 1)はダウンタイム終了約1時間後に発生し、DoloriasというプレイヤーのCondorでした。これはおそらくNPCのキルと思われますが、プレイヤー間での最初のキルメールは Kill ID 70で、Androz ChenのVelatorがCyberjunkのCycloneにより撃破されたものでした。ちなみに、Cyber Junkは2015年まで活動していたことが確認されています。

サーバー構造とキルメール生成の技術的詳細

EVE サーバーアーキテクチャ

EVE Onlineは単一のサーバーで動作しているわけではありません。実際には約200台の物理サーバーが存在し、その上で様々なノード(プロセス)が動作しています。これらのノードには以下のような種類があります:

  • ゲートウェイノード: クライアントが直接接続するノード
  • ソーラーシステムノード: 各星系を管理するノード
  • キャラクタースキルノード: プレイヤーのスキル進行を管理
  • マーケットノード: 市場取引を処理

各ノードの基本コードは同一ですが、実行する タスクが異なります。全体として、これらのノードが協力してクラスターを形成し、プレイヤーのクライアントはこのクラスターに接続します。

ソーラーシステムノード内のサービス

キルメール生成にとって最も重要なのは ソーラーシステムノードです。このノード内では複数のサービスが動作しています:

Destiny(宇宙空間シミュレーション) 宇宙での物理シミュレーションを担当します。興味深いことに、CCPはサービス名にバンド名を使用する傾向があり、DestinyやBeyonceなどの名前が付けられています。

Crime Watch(犯罪監視) プレイヤー間の攻撃行為を監視し、犯罪行為の判定やコンコード派遣の決定を行います。キルメール生成もこのサービスの一部として実装されています。

Dogma(教義・属性システム) すべての装備効果、スキル効果、船体ボーナスなどを管理します。装甲、シールド、武器ダメージボーナスなど、ゲームプレイに影響を与えるあらゆる属性がここで処理されます。

キルメール生成プロセス

キルメール生成の技術的プロセスは以下のようになっています:

  1. ダメージ記録: プレイヤーまたはNPCが何らかの敵対的効果(ダメージ、ワープ妨害など)を与えると、システムは被害者ごとにダメージ源を記録します。
  2. データ構造の更新: 各攻撃者からの総ダメージと最後の攻撃方法(武器種類や攻撃的効果)がデータ構造に保存されます。
  3. 船体爆発: 目標が撃破されると、ソーラーシステムノードは蓄積されたデータを収集し、「キルブロブ」と呼ばれるデータ塊を生成します。
  4. データベース書き込み: キルブロブはデータベースに永続化されます。

システムの制約と問題点

現在のキルメールシステムには いくつかの技術的制約があります:

文字数制限問題 最も深刻な問題の一つは、キルブロブのデータベースフィールドが varchar(8000) として定義されていることです。大規模な戦闘で多数のプレイヤーが参加した場合、キルブロブが8000文字を超えてしまい、データベースへの書き込みが失敗してしまいます。これにより、最も興味深いキルメールが失われてしまうことがあります。

最近では、Titanが多数のプレイヤーに攻撃されて多くのアイテムをドロップした際に、キルブロブが大きくなりすぎて失われてしまう事例がありました。データチームが後から手動で復旧する必要がありました。

シングルスレッド制約 ソーラーシステムノードはシングルスレッドで動作するため、大規模戦闘時にはキルメール処理が優先度を下げられます。また、ノードがクラッシュした場合、メモリ内のキルメールデータは失われてしまいます。

データ制限 メモリとパフォーマンスの制約により、現在のシステムは各攻撃者からの最後の攻撃のみを記録しています。ロジスティクス支援などの情報は含まれていません。

新しいデータ収集システム

Proto イベントシステム

CCPは2025年現在、全く新しいデータ収集システムを運用しています。このシステムは、ゲーム内で発生するあらゆる行動を Proto イベントとして記録し、Kafkaクラスターを通じてリアルタイムで処理します。

このシステムの利点は、ゲームサーバーの制約を受けないことです。データ収集専用のインフラストラクチャーを持つため、より詳細で包括的な情報を記録できます。

新しいキルメールシステムの特徴

詳細なダメージ記録 新システムでは、各モジュールからのダメージを個別に記録します。これにより、どの武器がどれだけのダメージを与えたかが正確にわかります。

ロジスティクス支援の記録 従来のキルメールでは不可能だった、リペア支援、シールド/アーマー強化、その他の支援効果が記録されます。これは長年プレイヤーコミュニティが要望していた機能です。

システム間移動の対応 旧システムでは星系間を移動すると ダメージログが失われましたが、新システムでは50分間のウィンドウ内で発生したすべてのダメージを追跡します。

より豊富なデータ 新システムでは以下のような情報も記録する可能性があります:

  • 使用していたスキン
  • フリートID
  • より詳細な位置情報
  • 戦闘の文脈情報

システムの実装状況

CCPは過去6か月間、このシステムを内部的に使用しており、アナリストチームが非常に高く評価しています。現在、このデータをESI(EVE Swagger Interface)を通じてプレイヤーにも提供する準備を進めています。

プレイヤーコミュニティへの影響

キルメール統計の推移

プレゼンテーションでは、キルメール生成数の長期的な推移が示されました。APIキルメール導入以来、生成数は一貫して増加傾向にあります。より興味深いのは、1日のアクティブプレイヤー数で正規化した統計です。これにより、実際にプレイヤーが以前よりも積極的にPvPに参加していることが確認できます。

現在の統計では、アクティブプレイヤー3人に対して1つのキルメールが1日に生成されているという興味深い数値が示されています。

今後の展開

新しいキルメールシステムは、まずベータ版のESIエンドポイントとしてリリースされる予定です。CCPはプレイヤーコミュニティからの フィードバックを積極的に求めており、以下のような改善を検討しています:

  • より長いダメージ記録ウィンドウ
  • 電子戦効果の記録
  • より詳細な位置情報
  • リアルタイムデータストリーム
  • アクセス制御の改善

プライバシーとアクセス制御

新システムの導入に伴い、キルメールへのアクセス権についても議論が必要になります。現在は被害者と最後の一撃を与えたプレイヤーのみがキルメールを受け取りますが、フリート全体での共有や、より広範なアクセス権の導入が検討されています。

ただし、一部のプレイヤーがプライバシーを重視していることも考慮する必要があります。CCPはバランスの取れたソリューションを模索しています。

技術的制約と将来の可能性

現在の制約

新システムにもいくつかの制約があります:

  • NPCダメージは現在記録されていません(PvPのみ)
  • アンドック時の装備情報のみ記録(戦闘中の装備変更は除く)
  • リアルタイム性の若干の犠牲(分散システムによる遅延)

将来の可能性

技術的には以下のような機能も実現可能です:

  • アビサルモジュールの追跡
  • ストラクチャ戦でのダメージキャップ情報
  • より詳細な戦闘位置データ
  • 戦闘レポートとしての統合表示

まとめ

ロジスティクス支援の可視化、より詳細なダメージ記録、戦闘の包括的な記録など、これらすべてが実現するならばEVE OnlineのPvPが戦略的・経済的な深みが増すことは間違いありません。しかし、これらがいつ実装されるかについての具体的な言及はなかったようなので、いつものCCPよろしく気長に待つ必要がありそうです(ロジスティクス支援についてはずいぶん前から言っていたような…)。

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