2026年1月、EVE OnlineのRedditスレで興味深いドラマが展開された。ドイツ系アライアンス「Synergy of Steel(SYN)」のメンバーが、フルESI提出の義務化に反対し、「裏切り者」のレッテルを貼られてコアリションから追放されたという事件だ。

元の投稿は削除されたが、残されたコメント群から事の顛末と、EVEプレイヤーたちの反応を読み解くことができる。本稿では、この事件を通じてESIの本質、スパイ対策としての有効性、そしてドイツ・EUにおけるデータ保護意識について考察する。


事件の概要

投稿者(便宜上「Ben」と呼ぶ)は、SYNおよびPhoenix Coalitionに所属していたディレクター級のプレイヤーだった。4年間の在籍歴を持つベテランだが、アライアンスがフルESI提出を義務化する方針を打ち出したことに強く反発。

彼の主張の核心は、「ドイツではデータ保護が非常にセンシティブな話題であり、フルESIの強制は問題がある」というものだった。しかし、この主張はコミュニティから嘲笑をもって迎えられた。

最終的にBenはコアリション内の別アライアンス(SCG)に移籍したが、Phoenix Coalition のリーダーであるErzusは彼のコープをブロックリストに追加。ドッキング権限、ジャンプブリッジアクセス、各種サービスへのアクセスを剥奪するという報復措置を取った。


ESIとは何か

ESI(EVE Swagger Interface)とは、CCP Gamesが提供する公式APIで、キャラクターのゲーム内データへの読み取りアクセスを許可するシステムだ。

「フルESI」を提出するということは、以下のような情報へのアクセスを許可することを意味する:

  • ウォレット(ISK残高、取引履歴)
  • メール
  • スキルポイントと訓練キュー
  • 所有船舶・アセット
  • コンタクトリスト
  • 現在位置
  • アクティビティログ

これらの情報は、SeATやAlliance Authといったサードパーティツールを通じて、アライアンスの管理者が閲覧・分析できるようになる。


ESIはプライバシー侵害か?

結論から言えば、ESIは「ゲーム内データ」に限定されており、現実世界の個人情報とは無関係だ。

コメント欄で最も支持を集めた意見の一つは、The Initiative.所属のBill_Paidによるものだった:

「SeATやAlliance Authを自分でセットアップしてログインしてみろ。情報がいかに退屈なものかに驚くはずだ。ディレクターがお前のウォレット履歴を見てキャッキャしているなんて想像しているかもしれないが、保証する、お前は自分が思っているほど面白い存在じゃない。」

ESIで取得できるのは純粋にゲーム内のデータのみであり、実名、住所、クレジットカード情報などの個人情報は一切含まれない。ある皮肉なコメントが指摘したように、「ESIでクレジットカード情報や住所が取れるとでも思ってるのか」という話である。

ドイツのプレイヤー自身からも、「ドイツ人として、ESI騒動が理解できない。私はNullで自分のコープを何年も運営してきたが、フルESIは常に当然のことだった」という声が上がっている。


スパイ対策としてのESIの有効性

EVE Onlineにおけるスパイ活動は、ゲームの根幹をなす要素の一つだ。では、ESIはスパイ対策としてどれほど有効なのだろうか。

肯定的な見方

Pyrostasis(The Initiative.)は、「ESIは間違いなくスパイを捕まえる。全員を捕まえるわけではないが」と指摘する。現実世界のセキュリティと同様、「多層防御」の考え方が重要だという。ESIは不正行為を「より困難にする」ツールであり、特に低レベルのスパイや不注意なスパイを検出するのに役立つ。

具体的には:

  • キャラクターの過去の所属履歴を確認
  • 不審な送金パターンの検出
  • 敵対勢力とのコンタクトの有無
  • アクティビティの異常な変化

ESIを要求することで、スパイは「使い捨て」にしづらくなる。新キャラクターを作っても、履歴の浅さや不自然なスキル構成から疑われやすくなるためだ。

限界

一方で、DawniJonesが指摘するように、「本当に優秀なスパイはESIを出し抜く」のも事実だ。ESIチェックを通過した上で、情報収集のみに徹する「長期潜伏型」のスパイは、簡単には発見できない。

興味深い指摘として、ESIの真価は「スパイのコスト」を上げることにある:

「スパイキャラを入れるのに大きな労力がかかるなら、数人のラッターを殺すためだけに燃やしたりしない。情報収集にのみ使う。逆に、毎日新しいスパイを入れられるなら、見かけたマローダーごとにサイノを上げて燃やすだろう。なぜならコストがかからないから。」

つまり、ESI自体がスパイを「根絶」するわけではないが、スパイ活動のROI(投資対効果)を下げることで、カジュアルなスパイ行為を抑制する効果がある。

運用面でのメリット

ESIはスパイ対策だけでなく、アライアンス運営の効率化にも貢献する。admfrmhll(The Initiative.)は以下のように説明する:

「フルESIは、一定規模に達した後の運営に基本的に必要だ。キャンペーンで利用可能な艦船を把握したい、メンバーがISKに困っているか確認したい、新しいキャップドクトリンに十分なSPを持つ人がいるか知りたい、税金の自動化、SIGの自動化など、多くのことに使える。」


EUのデータ保護意識とゲームの現実

今回の騒動で最も失笑を買ったのは、投稿者がドイツのデータ保護意識を米国の銃規制論争に例えた部分だった。

「データ保護、つまりフルESIはドイツで非常にホットなトピックだ。おそらくアメリカの銃所持論争に匹敵する。」

これに対し、Horde Vanguard.のF3F3F3F3は端的に「お前何言ってんの」と返し、Bombers BarのSganyは「ドイツでは学校銃撃事件の代わりにSeATのプロファイルを投げつけるらしい」と皮肉った。

GDPRの誤解

投稿者がほのめかしているのはおそらくGDPR(EU一般データ保護規則)だが、これはゲーム内データの共有には適用されない。GDPRが保護するのは「個人を特定できる情報」であり、EVEのキャラクターデータは法的な意味での「個人情報」には該当しない。

ドイツ人プレイヤーからも「ESIに反対している人は、フルESIがプライバシー侵害だと思っている典型的なドイツ人の低IQプレイヤーだ。彼らは知恵のスープをスプーンで飲み干したと思い込んでいる」という厳しい批判が出ている。

皮肉な現実

Evester111は、より広い視点からこの問題を皮肉った:

「悪いけど教えてやる。お前も周りの全員も、シュタージ職員1がパンツで興奮するレベルの監視下にある。お前らはそれを『ハンディ(スマートフォン)』と呼んでいる。それは現実世界の話だ。なのにビデオゲームのAPIで死ぬまで戦うのか…」


コミュニティの反応まとめ

Redditのコメント欄では、投稿者に対する批判が圧倒的だった。主な論点を整理すると:

投稿者への批判

  1. フルESIは業界標準 — 主要Nullsecブロック、多くのLowsecコープ、さらにはハイセクコープでも採用されている
  2. 4年間の関係をESIで切るのは大げさ — 「4年間の人間関係をESIで終わらせるなんて笑える。どっちもどっちだが」
  3. 隠すものがあるから反対している — 「フルESIに反対する理由がない。何か隠したいものがある場合を除いて」
  4. ゲームを真剣に取りすぎ — 「ドイツのアライアンスがゲームを真剣に取りすぎないと思ったのか?」

投稿者を擁護する意見(少数)

AIで生成されたと思しき長文の擁護コメントも見られたが、「これをAIなしで書いてみろ」とすぐに見破られていた。それでも一部の論点は妥当だった:

  • 集団罰(ドッキング権限剥奪など)は過剰反応
  • 「意見を求める」と言いながら結論が決まっているのは偽善的
  • 信頼の問題をESIで解決しようとするのは本末転倒

SYNアライアンス自体への批判

興味深いことに、このドラマをきっかけにSYNアライアンス自体への批判も噴出した:

「SYNはドイツのNewbie Allyだ。自分で船をアラインできるメンバーは3ヶ月以上いたがらない。フリート中にポッド状態の人がいる(船に乗り忘れ)。これはジョークじゃない。」

また、リーダーのErzusについても:

  • アライアンスのISKを私物化している疑惑
  • ムーンマイニングで採掘バージごとのレーザー数を制限するルール
  • メルコキサイト(高価値鉱石)の窃盗犯捜しに執着

考察:EUの過剰な人権意識とEVEプレイヤーとの感覚のズレ

SYNはEVEOnlineの中でも比較的若いEUTZのメンバーで構成されており、その戦闘能力も統治体制も発展途上のため、本件のようなトラブルちょいちょい表に出てきています。しかし、こういった未熟なコミュニティに対する批判はかってのGoonsやPH、Fratenityでも起こっていたことなので、個人的には温かい目で見守っていきたいと思います。

興味深かったのはEUプレイヤーよる「過度」な人権意識ですが、確かにAuthの仕組みもわからないプレイヤーから見ると、よくわからないURL送られて「ここから自分のアカウントでログインしろ」と言われたら警戒するのもおかしくないと思います。ゲームキャラクターのAPIを他人に提出することが当たり前になっているEVEOnlineプレイヤーの方が、実際普通ではないのかも知れません。


関連リンク:

  1. シュタージ職員:東ドイツ(ドイツ民主共和国)の秘密警察・国家保安省(Ministerium für Staatssicherheit, MfS)に所属し、国民の監視、情報収集、反体制派の弾圧を行った公務員や、その活動を支えた「非公式協力者(IM)」と呼ばれる一般市民の密告者を指す。
    正規職員と協力者の合計は膨大な数に上り、社会全体が監視網に組み込まれていた。  ↩︎

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